暮らすように歌う
木屋 亞万

彼女はシャワーを浴びながら歌を唄う
水の流れに乗せて悲しい歌詞を
まるで日曜の午後のようなのどかな声で
でもどこか切実に聞こえてしまう
すごく心地よいのだけれど
 ジーンズはベランダにぶら下がって
 涙を洗剤で流したためか白く褪せている

彼は思いついたように叫びをメロディに乗せる
思いついたままに叫ぶことが唄うことであるように
腹から声を絞り出して頭の上へ飛ばしていく
くぐもった水のはじける音に合わせて
彼女の声に合流していくように唄う
愛の言葉をさりげなく告げてみる
彼女に聞こえていようがいまいが

彼女はフライパンを振り回し
包丁を全力で振り下ろす
キッチンごと切れてしまいそうな
緊張感のなか森を燃やし尽くす歌を
アイドルのように口ずさむ
水と油のけんかする音がパーカッション
 世界をこの手で滅ぼしてやるわ
 火は燃えていよ彼が私に跪くまで

彼は冷たい蛇の歌を叫ぶ
 砂漠でも冷たい蛇になりたい
 どんなに周りが暑苦しくとも冷静に
 流されることなく太陽を嫌い続けたい
 彼女の乳房は当たり前にそこにあるもの
 存在を悲しませてはいけない
 月が太陽の居場所を奪わぬように

沈黙が会話であるように
歌うことは暮らすこと


自由詩 暮らすように歌う Copyright 木屋 亞万 2008-08-12 23:09:01
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