鎖骨



噛まれても突かれても
果ては飢えても
死なないと思っている
彼は(彼女は)まだ
まだとても幼いから



四角いビーカー
未開の白浜
硝酸の夢の中に落とされた二人の両顎
それと舌
いじらしいものだ
抱えているままで何も語れない歯列



暗いということはただ辺りを隠すだけではなく
とても染みやすくなっている状態でもある
におい
いろ
こえ
触る手指足
障る視線
染みやすいものだ
勿論忽ち欲望は加速する
願いでも望みでもなく産まれたままの剥き出しで
顕わになるが誰も恥じない
古い夜に染みて霧散してしまった熱情
もう忘れていい



獣は優しくない
人間も優しくない
君は時々その身体が片方の肩から誰かの片方の肩とくっついて
同化してしまえれば良いのにと考えるが
それはとても愛おしいことだ愚かさという点において
そして同じくらいに滑稽で無意味なことだ
真夜中の構想は妄想とひとりごちて
それきり止めてしまうべきだ



口ひげが表情を隠すように同じことを期待して
女は化粧をするのかと訊ねられた
別けられた首と身体が隠す人類愛についての説教よりも眠くて疲れるものだ
他者への説明あるいは弁明



温かいアイロンを肉親にするより親しみをこめて抱いて
それは文字通り焼けた鉄のようになっていくのに離せないでいる
恍惚の顔を称えながら焼けていく
歪でない車輪など物語の中にしかないように
初めから狂っていない轍なんてない



自由詩Copyright 鎖骨 2008-07-31 02:04:41
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