僕は金魚になって六畳の水槽の底に転がる
マッドビースト


 帰ると 金魚が死んでいた

 台所の床に置いた水槽の中で
 腹を水面に浮かべて

 血の止まった体は色あせて
 生きていたころの鮮やかな赤ではなかった
 死骸から染み出した白い粘液で水は濁り
 剥がれた鱗が浮かんでいた

 まだ名前も付けてなかったお前
 どうして死んでしまったの?

 僕は悲しむより先に
 水はまだきれいだったとか
 エサはちゃんとやったとか
 自分が悪くない理由を探していた
 
 そんな自分を消したいと
 毛布に包まって眠った
 眠ろうと転がった

 もう水の跳ねる音は聞こえない
 
 部屋には
 締め切ったカーテンの青が
 満ちていた
 
 泳ぐもののない水槽の中から
 ポンプの音だけが規則正しく部屋に響いた
 

 お前もひとりだったんだね
 水の中でお前は泣いていたのかな
 

 水の満たされていない六畳の水槽の中で流れる涙は
 はっきりと分かった
 


自由詩 僕は金魚になって六畳の水槽の底に転がる Copyright マッドビースト 2003-09-11 00:51:55
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