オルファン
マッドビースト


 オレンジに染められた
 夕立の街はドラマチックだった
 そのくせ登場人物は一様で
 傘を差し身をかがめて
 濡れないように足元ばかリ見て歩くから敗残兵みたいで惨めだ
 情熱に溢れた雨粒は銃弾の勢いで身を投げ出しては
 受け入れられずにビニールの布地の上を伝って落ちていった

 傘がなくて
 キャスケットを深く被って飛びだした僕は
 集中砲火を受けた
 シャツは忽ち負傷 
 ぐしゅぐしゅになってへばりついたけど
 この季節の雨は血のように暖かいんだね
 触れることもせずに家路を急ぐ人達は
 誰も気付かないけれど
  
 崩れ落ちる西日は傷口のような生命力を見せ付けながら
 雲とスモッグの向こうへと没した
 空も汚してしまって不感症の僕らは
 都合よく彼を引き止めたがったけど
 もうこの陥落寸前の街に 押しとどまって死守する
 忠誠の価値などきっとない

 それでも慈雨は次々と空から恵まれては
 僕達に受け止められずに次々と落ちた
 張り巡らされた側溝は
 手際よく彼らを集め下水へと押しやっている
 ごうごうと吸い込んでいるガス室だ 

 僕達は別れていく
 雨粒のように世界に生れ落ちたのに
 後から落ちてくるものを受け入れない僕達は
 服が濡れるのは嫌だ
 風邪をひくのも
 だから僕達は別れていく
 
 どうして『天然』の対義語は『人工』なのだろう
 僕達が自然の一部ではなくなってしまったのは
 それが辞書に載っているからだろうか
 オイルに塗れたペンギンや
 標本や象牙や毛皮たちは僕たちをなんて言うのかな
 
 ねえ 家路をいそぐ人達
 僕達に還るところは在るの?

 僕達は捨てられたのでなく
 棄ててしまったのかもしれないのに

 僕達の世代は感傷的だけど
 現実逃避でできちゃうほど単純でもない
 リサイクルはするけど
 可燃物の分別は完璧じゃない
 
 明日もきっと雨だから朝にはちゃんと
 傘を持って出かけるだろう
 服が濡れないように
 
 だから今だけは手を広げて雨をうけてみた
 指先まで伸ばした
 雨の銃弾をあびた
 プラトーンみたいだ

 六月の雨は暖かいよ
 すっかり曇天の空に聞いてみた
 
 僕達はまだ還れますか? と。 
 
 
 


自由詩 オルファン Copyright マッドビースト 2003-08-31 00:45:49
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