扇風機
小川 葉

お盆に実家に帰ったら
なつかしい扇風機が居間にあった
こどもの頃に足でスイッチを入れたり切ったりして
かなり邪険にしていた扇風機が
とてもモダンで今っぽく
おしゃれな感じに見えた

お墓参りに行く前に
扇風機の風にあたっていると
どこからともなく
焦げ臭いようなにおいがしてきて
その匂いはモダンなやつから漂っていることに気づき
あわててスイッチを切った

母に報告すると
おまえがたまたま帰省しているときに
気づいてくれたから、よかった
と、言ってくれた

そのモダンなやつは
わたしが産まれる前、母が嫁いでくる前から
この家にあったというから
おそらく四十歳ほどになるのだろう

わたしは思わず記念に(なんの記念なのかはわからないが)
その壊れた扇風機をケータイで写真に撮った

お盆休みが終わり
ふるさとにまたひとときのさよならを告げて
小さな借家に帰り、翌朝パンを焼こうとしたら
オーブントースターが壊れていた

しばらくパンを我慢して
一昨日、家電量販店に買いにいった
いろいろ迷ったあげく
あのモダンなやつと同じメーカーの
オーブントースターを買った

あたらしもの好きの親子はさっそく
そのオーブントースターでピザを焼いてみた
とてもモダンな焼き上がりだった

おいしい笑顔でピザを食べている三歳の息子に
四十年もしたら、おまえもいい大人だな
ふと、無意識にそう言ってから
過ぎた時について考えた

ケータイで撮ってきた
あのモダンなやつの画像を見ていたら
家族を失ったような気持ちになった

とにかくあの扇風機は
わたしたち家族と歴史をともにしてきたのに
お葬式さえもあげてもらえなかったのだ


未詩・独白 扇風機 Copyright 小川 葉 2007-09-03 22:17:46
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