テトラポットの上のロイド
虹村 凌

回り続けて乾燥しきった〆鯖を見つめながら
ロイドは生物が嫌いだった事を思い出す
チキンラーメンに入れる卵でさえ
トロトロしてるのが許せない
そんな女だった事を思い出す
不器用にカクリカクリと体を動かすロイドは
金色のマールボロを吸っていた

煙草の先から蜃気楼が

傍にいてくれりゃいいのに
それで全てが上手くいって
それで幸せになれる気がする
でも僕等はもう
どの夜にも戻れない

テトラポットの上に

愛されたいのにされない
愛してるのに気付かれない
「そんな男とは別れちまえよ」
と言えたら少しは状況が変わっていたのか
袖を引く手を握るくらいでなびく女でもあるまい
考えれば考える程煮詰まる鍋みたいな頭ン中

テトラポットの上に立ってほしい

寝苦しい夜にスーツを着て散歩に出る
熱帯夜にラバーソールを履いて散歩に出る
大好きな女の事を考えながら散歩に出る
時計も携帯も何もかも家に置いてきたよ

煙草の先から蜃気楼が立ち上って

どうにもこうにも満足出来ない
安っぽいヒロイズムは結構嫌いじゃない
だけどどうにも満足出来ない

テトラポットの上に立って欲しい

先に眼が覚めても何処にも行かない
夜になれば帰ってくるって約束する
もう洗いたての髪にキスしたりしない

滲んで広がって弾けてしまった

曲がりきれなかった小皿が
音を立ててベルトコンベアから弾き飛ばされた


自由詩 テトラポットの上のロイド Copyright 虹村 凌 2007-07-22 21:21:03
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