メイドロイドに惜しまれ
虹村 凌

惜しまれながら死んでゆく英雄に憧れる
使い回されてとっくの昔に錆びついた
安っぽいヒロイズムが大好きで
磨り減ったラバーソールで歩き回る

機嫌悪いときにメールをすりゃあ
「私がメール嫌いなの知っててやってる?」と言われて
嬉しそうに携帯のメールを眺めていた顔を思い出して
苦虫を噛み潰したような顔をして
煙草を吸い込んで投げ捨てる
ラバーソールで踏んで消す
引き返して拾った吸殻はぺしゃんこで
それはもう見事にぺしゃんこで
うずくまって泣いてしまった

常識が無いと罵られ
使えないと嘲笑されて
メイド服を褒めればキモいと言われ
歩くのが早いと袖を引っ張られ
寒いから一緒に寝ようと言われて
抱きしめりゃ大して暖かくないと言われ
洗い立ての髪にキスをすりゃあ怒られて
抱きしめた手は小さな胸の上で
こんな詩を書けば

手にした吸殻はフィルターが千切れて
残った葉が中から飛び出していた
巨大な箱のような実家の自室にこもって吸殻を見つめる

いつかスーパーカブでメイドロイドを迎えに行きたい
でもきっと
僕がそこに着くころにはメイドロイド
既に他のご主人様と腰を振っているだろうね
ダスティンホフマンに憧れて手を引いて逃げれば
非常識だと手は振りきられ
スーパーカブは知らない誰かに盗まれて
メイドロイドはご主人様のもとへ

安っぽいドラマは嫌いじゃない
安っぽいヒロイズムも嫌いじゃない
磨り減ったラバーソールも嫌いじゃない

惜しまれながら死んでゆく英雄に憧れて


自由詩 メイドロイドに惜しまれ Copyright 虹村 凌 2007-07-23 00:23:27
notebook Home 戻る  過去 未来