嘔吐
ねろ

たくさんの人が食事をしている
僕はテーブルの下で這い蹲って
様子を伺う

海の向こう側の食物が海のこっち
側の人の口に入っていく

・・・・なんておぞましい光景!

ムーミンのママだったらそう思うだろう

あちらこちらを制圧したがる人々の群れが
まるで戦争にも似ていて(僕は見たことが無い)

(見えない、戦場)

いきていたものの残骸をなんとも思わないのさ 僕ら

女の子がスパゲティで遊んでいる
子供が食べ物で遊んでいるときは
大体嫌いなものの時だ

女の子はすき、ときらい、のあいだで戦っている

こういう時僕はとても困ってしまう
本当なら止めて食べさせるべきなんだ

でも良く遊ばない人間なんか面白くは無いんだ!
それは遊びのなかに好き、嫌いが内在しているから

(人間はいつだって戦場をつくりださずにはいられない)

たくさんの人が食事をしている
僕はテーブルの下で這い蹲って
様子を伺う

たくさんの人のうちの一人の爪先が僕の膝に当たると
そのオジサンになる男は屈んでテーブルの下を覗き込んだ

たくさんの人達はは僕のあばら骨を切り出して
その周りの肉を食べたがる習性がある

僕は生きていた頃の記憶があまりない
きっとたくさんの人達に食い尽くされた所為だろう

(いくつも連なる戦場とのばされた手)

生きていた頃の記憶の残骸なんてなんとも思わないのさ 僕ら

膝下では持ち主をなくした記憶が
散らばっていて女の子はスパゲティ
を食べるのをやめて夢中になって
それを拾い集めてる

大人達はその光景を見てはその光景自体を切り出し食い尽くす

誰かのクスクス笑いとくしゃみが飛び交う中で

女の子はまだ僕の記憶の欠片を
拾い集めてドロップスにして飲み込む
作業を繰り返し繰り返している

(女の子の飲み込んだドロップスは
一旦は液化してその体内で僕、を再構成する)

テーブルの上では相変わらず世界一周が繰りひろげられている

並べられた世界中のこんにちはが瞬く間に
いろんな人の胃袋の中へと収められていく

クスクス笑いは戦場の賛美歌のようだし
くしゃみはカノンのように連鎖して発生するのに

僕は熱を帯びて沈む風景の様に
周りの気配に馴染んでいく

女の子は何故か僕の名前を知っていて
産まれてくるドロップスのひとつひとつに
同じ名前をつける

人類はあっという間に地球の何万回分もの
吐寫物を飲み込んでしまう





未詩・独白 嘔吐 Copyright ねろ 2007-04-21 20:11:03
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