眩しいものの話
クローバー

1『例えば』

例えば、ちいさなこえで、たすけて、って言う
例えば、山手線の中で、大泣きしてしまう
例えば、メールを送るとき、カッコ笑いで死にたいと言う
例えば、道の端に捨てられた猫の死骸を前に、生きたかったよね、と声をかける
例えば、蝿を殺すことができない
例えば、ゴキブリがかわいそうで叩こうとも思えない
例えば、生き物が虐げられる理由なんて、くだらなくて
例えば、生きたいと願わない生き物には、蚊やゴキブリや蝿すら眩しく見える


2『文字』

文字を含んでは吐いて含んでは吐いて
文字を見ることも辛かった、文章を読むなんて到底できないのだけれど
それでも、何かを考えるよりはマシだった
文庫本の同じページを1時間かけて、文字を拾い、目を通すだけ
苦痛でしかなかった
それでも、何かを考えるよりはマシだった


3『眠れないベット』

這うことも出来ずに、ベットに寝ている
ときどき、向きを変えなければ、床ずれになるらしいけれど
それすら面倒で、枕、湿ってるのが気持ち悪いような気がした
些細なことばかりで、嫌になった、風がカーテンを揺らしている
そのとき流れる光や目に映る眩しさで、死ねたらいいのに


4『しし座流星群』

見逃した流れ星はいくつあったんだろう
見つけられた流れ星はいくつあったんだろう
願いをかなえることのできる流れ星はいくつあったんだろう
願いをかなえることのできない流れ星はいくつあったんだろう

(省略)


5『はじまり』

くだらない、とてもくだらない
どのくらいくだらないかって?
ビックバンで宇宙がはじまるくらいくだらない
爆発のついでに、僕らは産まれた
のなら、もう一度ここで爆発してしまえ!
神様の花火で、僕らは、産まれて死んで生まれて死んで生まれて死んで生ま―――
くだらない瞬間のために
緩やかな悲しみの息苦しい煙に巻かれて離れてしまった
たくさんの僕らは、離れてしまったんだ
それぞれの火花の一人きりより先


6『サソリの夢』

サソリの夢は、赤い夢。
針を恐れる人々と、毒を恐れる人々と
ちょっとだけのお話をして、静かに微笑むことだけ
振り上げられた、尾っぽを、めでるように、包んで、言う
あぁ、私は、これがなくては、サソリではいられないのです
これがなくては、サソリではなくなってしまう
しかし、これがあるばかりに、これがあるばかりに・・・


7『コーヒーミルク』  
     
コーヒーミルクから、コーヒーを取り出せたら
コーヒーミルクだったものは、ミルクになることができるのだろうか
白いミルクの河が屑星たちの光でできていることは、知っていたんだよ
河のほとりで、水を汲んでいる農夫のバケツから、白いミルク色が瞬きながら零れて
コーヒー色の真空にパリリ、と飛散してしている
向こう岸には、カラスが群れをなして、オレンジの落穂をつついている
その足元のスズメたちは、零れた米粒をしきりに喰らい
その銀の米粉をフワリフワリ、と風に躍らせていた
ずいぶんと忙しい様子で、嘴を動かしていて
嘴の動くたびにマグネシウムの火の粉が散った
バケツの水はミルク色の水滴をパシャリパシャリと光らせ
真空のコーヒーに溶けては、また、消えた


8『幸いのこと』

(省略)



未詩・独白 眩しいものの話 Copyright クローバー 2004-04-22 01:33:47
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