【親友の恋人略奪事件】
クローバー


嘘がたくさん落ちている床の上で
かつて親友と呼んでいた男とかつて恋人と呼んでいた女が
絡まったままミイラになっている

僕は、ポケットから白い手袋を取り出し装着すると
彼らの傍らに転がったたくさんの嘘を
ひとつひとつ持ち上げて、ルーペで証拠になりそうなものを探し
検証する
ミイラは動かない、動いているようには見えない。


証拠物品
優しい嘘 嘘を守るための嘘 嘘を守るための嘘を守るための嘘 ・・・
恋人だったほうのミイラの悲しみは横たわっていた嘘が朽ちることではなく
嘘を朽ちらせることなく信じた僕に、淋しいと泣きじゃくることもできない渇きであり
渇くことによってのみ、信頼を守れるとした健気さであり
渇ききってしまうことのできない、人として当然の水分への飢えであったに違いなく
朽ちるべき嘘を僕が真実と呼んでいたことから
僕が彼女をしっかり見ていなかったということを露呈し、それは
彼女の優しさに甘えきって笑顔の内側に燻った深い孤独を見落としていたことを示し
全ては関連性を持って、結局、嘘は僕の中へと収束していく。
喉の渇いた彼女が好きなレモンティがなければ手に入るミルクティを飲むのは必然であり
繰り返しミルクティを飲んでいるうちに、親しみをもって好むようになる
のもまた必然であったように推察する。

拾い上げたひとつの嘘を僕はハンカチに包んだ
とりあえず、嘘のあった場所にチョークで床に印をつけるため屈むと
目の前に二つのミイラ
僕は情が朽ちた甘ったるい臭いで吐き気を催す。

(窓を開けよう)


彼らは、男のミイラが女の頭を胸に抱え、撫でているような格好であり
女のミイラは身体を丸めて、男の腕に包まれていた
その姿はまるで男のほうが女をあやしているかのようであった。







「さて、と。
 おい、誰か僕に手錠をかけてくれ。」


未詩・独白 【親友の恋人略奪事件】 Copyright クローバー 2004-05-07 23:54:42
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