「 つめたくて。 」
PULL.







わたしの妻は冷たい。
どれぐらい冷たいのかというと、
夜中に妻の躯の冷たさで、
飛び起きてしまうほどである。
そんなとき妻に触れていたわたしの部分は、
軽い凍傷を起こしている。
わたしは床を抜け出し風呂場に行き、
熱い湯に浸り治療する。
この姿は妻には見られたくない。
妻はなにも悪くないのだ。
わたしが妻よりもあたたかい。
それが問題なのだ。


妻の朝は早い。
つぐみの囀りよりも早く起き、
その朝の飯を炊く。
わたしはそれまでに治療を終え、
妻の眠る床に戻っている。

妻は言う。
「あなたは眠ると、
 揺すっても触っても起きない。
 こんなお寝坊さんは、
 はじめてよ。」

わたしは笑ってそれに応え、
妻の炊いた冷たい飯を食べる。
わたしはあたたかい飯が好きだ。
だが妻の炊く飯は、
いつも冷たく凍てっている。
わたしは幸せな気持ちで、
それを食べる。

同僚たちに聞かれると、
わたしはいつもこう答えている。
「妻の作る料理は最高だ。
 特に飯が美味い。
 あんなに美味い飯は、
 妻と出逢うまで食べたことがない。」

わたしたちは、
そんな夫婦である。












           了。



自由詩 「 つめたくて。 」 Copyright PULL. 2007-02-04 20:17:21
notebook Home 戻る  過去 未来