すべてのおすすめ
いくら頭を抱えても
仕方のないことで
うじうじしている自分の{ルビ面=つら}を
本の頁から取り出した
厚手の{ルビ栞=しおり}で、ひっぱたく。
僕の履いてる靴の踵は
ぽっかり穴が、空いており
電車待ちのベンチや
仕事帰りのファミレスで
片足脱いでは
いつも小石を、地に落とす。
給料日が来るたびに
「今月こそ ....
気づいたら、すでに私でした。
鏡に映っている、ひとでした。
産声を上げる場所も
時代も
両親も
自分という役を選ぶ間も無く、私でした。
砂浜を往く、亀に憧れ
黙ってそこ ....
一体どんな違いがあるのだろう?
夏日の照りつけるアスファルトの上
ゆらゆらと
{ルビ陽炎=かげろう}になって今日の食物を探す
あの家のない人と
駅の構内に日がな坐り
10円 ....
彼はいつも、四つ足を
ぴたりと大地につけている。
一体何が本当に
天から彼に
与えられたものなのか
ぢっと開いた丸い目で
夜の{ルビ静寂=しじま}を見抜く
蛙のよう ....
文学講座に参加した後はしごした
歌舞伎町の居酒屋「エポペ」で
酔っ払ったかれらは千鳥足のまま
無数のネオンの下で人間が渋滞する
新宿駅までの道を歩いていた
「エポペ」のカウンタ ....
亡き人を偲び
酒の机を囲むと何故か
予想外におまけな
一本のビールや
皆の和に
入りたそうな誰かの為に
余分なグラスが運ばれる
皿に盛られたつまみはどれも
....
一日というものが
こわいほど
早くに暮れる
きっと人生は
序章から終章まで
風にめくれる無数の{ルビ頁=ページ}を
一瞬のひかりでつらぬく
一冊の本
一日の終わ ....
今にも崩れ落ちそうな
{ルビ脆=もろ}いわたしの内側に
いつまでも崩れずに立つ
たったひとりの人がいる
これは一体誰だろう
ぎらぎらと
眼の光る犬が
飼い主に首輪をつながれ
通りすぎた
わたしもあんな眼で歩き
いつも空から{ルビ観=み}ている飼い主が
今日という日にそっと隠した
見えない宝を ....
早朝、床に坐り
瞳を閉じるマザーは
今日の路上で出逢う飢えた人と
お互いの間にうまれる
あの光で
幸福につつまれるように
無数の皺が刻まれた
両手を合わせる
身を包 ....
早朝の{ルビ人気無=ひとけな}い聖堂で
十字架にかかった人の下に{ルビ跪=ひざまず}き
両手を合わせる
マザーテレサのように
つらぬかれたこころがほしい
修道院から
何も持た ....
ほんとうの幸いはきっと
奈落の底の暗闇に独り立つ
頬のこけたピエロが
無人でゆれる空中ブランコの上に
茫洋とした瞳で仰いだ
プラネタリウムに瞬く
あの{ルビ金星=ヴィーナス}み ....
( 世界は
( 透けた瓶の内にある
森の小道を裸足で走り
汗をかいたラムネの器の底を手に
真夏の空に傾ける
( 星のころがる、音がする。
{ルビ蝉時雨=せみしぐれ ....
一匹の{ルビ蝿=ハエ}は
羽を{ルビ毟=むし}られたまま
今日も曇天の街を漂う
迷い込んだ森の{ルビ裡=うち}で
湿った草の茂みに囲まれ
一輪の薔薇が咲い ....
日曜の午後
鎌倉の喫茶店で
「 詩人の肖像 」
という本を読んでいた
店内の天井から
ぴったりと静止した
サーカスのブランコのように
ぶら下がる
....
わたしはいつも、つつまれている。
目の前に広がる空を
覆い尽くすほどの
風に揺られる{ルビ椛=もみじ}のような
数え切れない、{ルビ掌=てのひら}に。
その手の一つは、親であり ....
桜舞い散る春の日
正午の改札で
杖を手にした祖母は
ぼくを待っていた
腕を一本差し出した
ぼくを支えに
大船駅の階段を下り
ホームに入って来て停車した
東海道線の開 ....
毎日ともに働く人が
あれやって
これやって
と
目の前に仕事をばらまくので
わらったふりで
腰を{ルビ屈=かが}めて
せっせ せっせ と
ひろってく
そのう ....
その人の瞳の内に
永久の春が在り
遥かな昔から
桜の木が立っている
冬の冷気を越え
降りそそぐ春の日射し
今にも開こうとする無数の蕾に
こころは{ルビ軋=きし}む
....
昨日はきみを傷つけたので
布団にしがみついて
うつ伏せたまま
闇のなかに沈み
眠った
夜が明けて
目覚めると
窓枠の外に広がる
朝焼けの空
ふわりと浮かぶ
....
緑の葉を一枚
唇に{ルビ銜=くわ}え
言葉の無い唄を奏でる
黒い影の姿で空を仰ぐ
わたしのまわりが
ひだまりとなるように
* この詩は「詩遊人たち」 ....
昨夜の大雨で
水{ルビ溜=たま}りに{ルビ浸=つ}かった靴に
古新聞を丸めて入れる
翌朝
すべての水をすいこんだ
古新聞を取り出し
しめった重みを
ごみ箱に捨てる ....
丘の上の{ルビ叢=くさむら}に身を{ルビ埋=うず}め
仰向けに寝そべると
空は、一面の海
宙を舞う 風 に波立つ
幾重もの{ルビ小波=さざなみ}を西へ辿れば
今日も変わらぬ陽は ....
平日、日がな部屋に篭り、息が詰まりそうであった。
暗い部屋の雨戸の隙間から射す一条の光に呼ばれて、
ベッドから身を起こし、外へ出る。
( 日を浴びて、空を仰いで、息を吸い込む )
....
もし
きみ が ぼく を
ガラスの水晶のように
見てるなら
少しでも指にふれたら
汚れてしまいそうな
壊れてしまいそうな
世にもきれいなものとして
見てるなら
....
窓外に
枯れたまま{ルビ俯=うつむ}く
{ルビ向日葵=ひまわり}
夏
辺りを照らす
太陽の花に
振り返っていた人々
秋
{ルビ独=ひと}り汚れ身を{ルビ晒=さら}しな ....
お婆ちゃんの細い手が
絵葉書に描いた
美味しそうなまあるいピーマン
筆を墨に浸した僕の若い手は
「 いつも ほんわか しています 」
と曲がりくねった字を余白に書いた
お婆ち ....
自転車に乗って
歩道に沿った白線の上を走っていた
アスファルトの割れ目から生える
しなやかな草々をよけながら
背後から
{ルビ巨=おお}きいトラックのクラクションが聞こえ
....
地面には
ぺちゃんこのかまきり
おどけた鎌を振り上げて
お前は偉いな
踏みつぶされても
踊ってる
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