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早朝 
{ルビ浴衣=ゆかた}のまま民宿の玄関を出ると 
前方に鳥居があった
両脇の墓群の間に敷かれた石畳の道を歩き 
賽銭箱に小銭を投げて手を合わす 

高い木々の葉が茂る境内を抜けると  ....
夜になってから急に 
庭の倉庫に首を突っ込み 
懐かしい教科書を次から次へと処分して 
家の中に戻ったら 
腕中足中蚊に刺されていた 

それを見た母ちゃんは、言った。 
「あんたはつよ ....
長い間
{ルビ棚=たな}に放りこまれたままの 
うす汚れたきりんのぬいぐるみ 

{ルビ行方=ゆくえ}知らずの持ち主に 
忘れられていようとも 
ぬいぐるみのきりちゃんはいつも
放置され ....
夏の涼しい夕暮れに 
恋の病にうつむく友と 
噴水前の石段に腰掛けていた 

( 左手の薬指に指輪をした
( 女に惚れた友が 
( 気づかぬうちにかけている 
( 魔法の眼鏡は外せない  ....
照りつける夏の陽射しの下 
墓石の群を横切る私の地面に頼りなく揺れる影 
一瞬 頬に見えた{ルビ滴=しずく}は 涙なのか汗なのか 

( {ルビ嘗=かつ}て 一途だった少年の恋は
( 夏の夜 ....
立ち位置を、探している。
いつまでも見つからない、
足の踏み場を。 

もしくは、
消えてしまった君の幻を
抱きしめる、
世界の中心を。 

人波の川が流れゆく
この街の中で、 
 ....
私とあなたの間には 
いつも一枚の窓があり 
互いは違う顔でありながら 
窓には不思議と似た人の顔が映る 

私とあなたの間には 
いつも一輪の花の幻があり  * 
互いの間にみつめると ....
深夜の地下道 
両脇に並ぶ店のシャッターは全て閉まっていた 

シャッターに描かれた
シルクハットの紳士は大きい瞳でおどけていた 

胸からはみ出しそうな秘密を隠して 
彼は独り歩いた
 ....
今夜 私には 
逢いにゆく人がいない 

孤独な夜の散歩者は
アスファルトに響く雨唄と 
ビニール傘に滴る雨垂れの 
二重奏に身を浸しながら 
果て無い雨の夜道を{ルビ彷徨=さまよ}う  ....
少女は長い間 
窓の外に広がる海を見ていた 
{ルビ籠=かご}の中の鳥のように 

時折 
人知れぬ{ルビ囀=さえず}りを唄っても 
聞こえるのは 
静かに響く潮騒ばかり 

( 浜 ....
深夜の浜辺で
青白い顔をした青年は 
{ルビ焚=た}き火の前で{ルビ膝=ひざ}を抱えている 

肩を並べていた親しい友は 
すでに家路に着いた 

胸の内に引き裂かれた恋心 
誰の手に ....
一月前 
長い間認知症デイサービスに通っていた 
雷造さんが88歳で天に召された 

だんだん体が動かなくなり 
だんだん独り暗い部屋に置かれる時間が多くなり 
ある日ベッドで瞳を閉じて横 ....
春の陽射しに 
紅い花びらが開いてゆく 
美しさはあまりに{ルビ脆=もろ}く 
我がものとして抱き寄せられずに
私は長い間眺めていた

今まで「手に入れたもの」はあったろうか 
遠い真夏 ....
一昨日
夕食を待ちきれず
ピーナツをひと袋
ぼりぼりたいらげたら 
腹をくだした 

昨日
{ルビ無精髭=ぶしょうひげ}を{ルビ剃=そ}り忘れたまま出勤し 
一日青白い顔で吐き気をこら ....
団地の掲示板に 
吊り下げられたままの 
忘れ物の手袋 

歩道に
転がったままの
棄てられた長靴 

{ルビ棚=たな}に放りこまれたまま
ガラスケースの中に座っている
うす汚れた ....
オリオン座が西の空に瞬く午前三時

部屋の中で独りの男が
机を照らすランプの明かりの下
白紙にペンを走らせる音 

時を忘れ
宛先の無い手紙を{ルビ綴=つづ}る深夜に
眠れる街の何処か ....
鎌倉駅の通路の壁に
寺へと続く石段の写真が展示されていた

門の向こう側の境内には
不思議な光が満ちあふれ
そっと上げた足先を写真に入れると
体ごと吸い込まれた僕は
気が付くと
石段の ....
二月の冷たい雨が降る午後
近所の喫茶店でお茶を飲みに
愛読書を鞄に入れ ビニール傘を差し
家の門を出て川沿いの道を歩いた 

川の流れる{ルビ辺=ほとり}の土に
一羽の{ルビ白鷺=しらさぎ ....
夕暮れ
男は空を見ていた
世の{ルビ何処=どこ}にも{ルビ属=ぞく}さぬように
草原に独り立ちながら

{ルビ只=ただ} {ルビ暁=あかつき}色に染められた雲が
宵闇に流れて姿を消してゆく ....
{ルビ穏=おだや}かな初春の陽射しを{ルビ額=ひたい}にあびて
目を細め のんびりと自転車をこいでいた

狭い歩道の向こうから
杖をついたお{ルビ爺=じい}さんがびっこをひいて
ゆっくり ゆ ....
先輩が威勢良く{ルビ梯子=はしご}を駆け上がり
天井近くの狭い{ルビ頂=いただき}に腹を乗せ
{ルビ扇子=せんす}を指に挟んだ両手・両足を広げて

「 {ルビ鷹=たか}・・・! 」 

と ....
年が明けてから まだ太陽を見ていない
外には{ルビ只=ただ} 冷たい雨音

静かで薄暗い正月


神棚に手を合わせたら
{ルビ揃=そろ}えた足元の床がへこんでいた

町では偽 ....
朝早く
{ルビ風呂場=ふろば}にしゃがみ頭を洗っていると
電気に照らされたタイルに小さい光の{ルビ人形=ひとがた}が現れ
こちらへ手を差し出した

思わず光の手を握ると
タイルの裏側へする ....
もう何年も前
遠い北国に{ルビ嫁=とつ}いだ姉が
新しい暮らしに疲れ{ルビ果=は}て
実家に帰っていた頃

日の射す窓辺に置かれた
白い植木鉢から緑の芽を出し
やがて赤い花を咲かせたシク ....
あても無く{ルビ彷徨=さまよ}う
芝生に伸びる私の黒影
丘の上に独り立つ

{ルビ只=ただ}
北風は{ルビ枯草=かれくさ}を揺らし
雲ひとつない空は澄みわたり
日の光の道を映す海は
 ....
時速80kmの車窓
次から次へと景色は流れる

ホームの階段をひたむきに駆け上がる
パリッ!とスーツの新人サラリーマン
けっつまずき 宙に浮く {ルビ縮=ちぢ}んだ4本の手足
車窓から消え ....
親父は定年退職し
母ちゃん専業主婦となり
息子のぼくは半人前

母ちゃん家計簿とにらめっこ
ばあちゃんが払う食費も1万ふえて
なんとかやりくりの日々であります

雨もりがあふれる床
 ....
人と争うように働いて
話す気にもなれず
押し黙ったまま一日を終える

仕事帰りの公園のベンチ
あたたかいゆげで慰めてくれる
たこ焼を食べていると
目の前の通りを
なかなか客に呼び止めら ....
「なんでぼくはいきているんだろう・・・?」

十代の頃から十年以上問い続けてきたが
宙に浮かんだ透明な「答」を今もなお{ルビ掴=つか}みあぐね
差し伸ばした腕の先に手を開けば
只 僕というち ....
真夏の日差しの照りつける
石畳のオランダ坂を下っていると
左手の幼稚園の中には
元気に足踏みしながら歌う
水色の服を着た子供達

入り口には
ひとりはぐれて泣いている男の子
笑みを浮か ....
松本 涼さんの服部 剛さんおすすめリスト(67)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
駒ヶ根_- 服部 剛自由詩14*06-9-5
歩く花- 服部 剛自由詩15*06-8-27
棚の中のきりちゃん_- 服部 剛自由詩21*06-8-20
呼声- 服部 剛自由詩20*06-7-30
渇いた夏_- 服部 剛自由詩26*06-7-26
「空」を抱く人_- 服部 剛自由詩20*06-6-19
傘を差す人_- 服部 剛自由詩21*06-6-9
地下道の音楽_- 服部 剛自由詩11*06-6-4
夜の散歩者_〜_反射鏡を探して_〜- 服部 剛自由詩24*06-5-26
海を翔ぶ翼_〜_少女と羊_〜- 服部 剛自由詩8*06-5-3
幻の太陽_- 服部 剛自由詩15*06-4-16
雷造じいさんへの手紙- 服部 剛未詩・独白13*06-3-26
夕暮れの並木道- 服部 剛自由詩14*06-3-13
髭を剃る夜_- 服部 剛自由詩8*06-3-8
空白の呼び声- 服部 剛自由詩16*06-3-8
ある真夜中のポエジー(第二稿)_- 服部 剛自由詩10*06-2-12
ある日の夢_〜鎌倉の寺へ〜- 服部 剛自由詩10*06-2-2
雨に濡れた白鷺- 服部 剛自由詩10*06-2-1
夜風の唄- 服部 剛自由詩8*06-1-25
そらにひびくこえ- 服部 剛自由詩8*06-1-15
穴の中_〜冬眠の詩〜- 服部 剛自由詩9*06-1-13
初夢の青年- 服部 剛自由詩13*06-1-6
門出- 服部 剛自由詩8*06-1-3
花を育てる_〜一年の計〜- 服部 剛自由詩13*06-1-2
石ころ- 服部 剛自由詩5*05-12-31
小春日和に- 服部 剛自由詩10*05-12-12
さといも家族- 服部 剛自由詩22*05-11-5
白いゆげ- 服部 剛自由詩23*05-11-1
鏡の中に映る人_〜誕生日に想う〜- 服部 剛自由詩7*05-10-30
魔法の文字_ー長崎にてー_- 服部 剛自由詩10*05-10-9

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