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  わたしは座る
  青空がゆれている
  かなしいという言葉がなぜか
  小さな虫みたいに空気をうめていく


  なつかしい歌を思いだして
  気持ちだけが静かになっていく
 ....
  コールタールの
  夕ぐれは さびしい匂い
  潮風のながれを瞳にうつしながら
  ちいさな犬を飼いたいと思っているあなただ
  席はあったが
  わたしは座らなかった
  銀いろの月によく似た
  さみしい言葉だけ胸の奥に置いて
  けれども誰にむけたものかわからず
  きまり悪い笑みをうかべて わたしは ....
  右へ行ったカワウソは
  けさ、左から帰ってきた
  蘭の花が 腕の真ん中あたりで咲いていて
  よく考えたら ゆうべきみがそこを強く吸ったのだった
  部屋のあちこちに敷き詰めら ....
  羊の影が
  小径を歩いて行くのがみえた
  人も居らず ごみばかり落ちている
  その小径は雨の臭いに満ちていて
  もう
  まもなく、
  日暮れが訪れる
  マフラー ....
  昭和と平成の間にはさまって
  押しつぶされてしまったような工場を
  眺めながら煙草を一本喫う
  犬の散歩をする{ルビ母子=おやこ}は
  怪訝な顔ひとつ見せず通り過ぎる

 ....
  マフィンはいらないよ
  くたびれた風のように
  もうここを出ていくから



  皺のとれぬシャツのために
  ハーモニカを吹いてくれよ
  冷めたコーヒーをすするよう ....
  すてきな溝があったので
  かたほうの耳をそこにあずける



  夏草は風にこすれ
  虫たちが{ルビ清=さや}かな羽音をたてる
  日の光のなかですべては
  ひとしく ....
  かなしみに塩をふる
  ほんのひとつまみ



  朝の光を浴びるとき
  雨に濡れたいくつもの言葉が
  「うれしい」という言葉に変わる
  あなたのえくぼが深くなるとき ....
  緑しげる季節に
  ぼくたちが出会うとき
  そこへと水がながれ
  そこへと水がたまり
  そこから水がぬけた
  だからだろうか
  白昼よりたしかで
  暗闇よりくるし ....
  縁側に置かれた
  座布団にひなたと
  猫のにおいが残っている



  どこかで水が流れているのに
  影も形も消えてしまったみたいだ
  風に運ばれ
  気まぐれな ....
  時計の針が午後にすすむ
  ぬかるみに片方の足をつっこむ
  目に見えぬ羽虫をよけるような、
  ぞんざいなしぐさでカーテンを閉めた
  


  部屋の卓上に置かれていた
 ....
  きみはぼくに
  ただ一言の問いかけをした



  夏、
  夕暮れのきつい光が
  少しだけ漏れる部屋で
  きみはぼくに問いかけをした
  どんな手がかりも
   ....
  小学校は
  投票所になっていた
  冬のひととき
  ぶらさがるカーテンの波を
  光の風が揺らす教室



  長靴にしのびこんだ
  濡れ雪を気にしながら
  ま ....
  冬になるときみは
  樹下の落葉をひろい集めて
  ぼくの胸のうえに載せ
  火をともしたものだ
  それ以外に
  やり方のないような手つきで



  あのなつかしい ....
  カップボードのガラスに
  葡萄の果実が映しだされる
  一粒ひとつぶ、
  丁寧に描いたみたいに



  時計の針の刻む音が
  穏やかに年老いてゆく間
  ホテルか ....
  生臭い夜に
  九本の足が生えている



  洗いたてのシーツに置かれた
  ただひとつの丸い石
  きみの汗がそのうえを伝い
  鼠がねぐらに帰るように
  闇の奥へ ....
  白い馬が
  眼をとじて横たわっている
  柔らかな草の緑
  露薫る朝につつまれ



  あなたの夢の頁は
  遠くからの風にはらり捲れる
  はじまりから終わりまで ....
  金色の水がつたうと
  かたく四角いその壁は
  栗鼠のようにまるくなる
  ひとびとの話す声が
  物陰にひしと隠れる秋  
  きみの舌は木枯らしをつかみ
  それからねむ ....
  国
  という言葉がいま浮かんだけれど
  どうしたものか思案している



  一ヶ月近く洗っていない
  ランチョンマットには三箇所の染みがついているが
  それでも洗 ....
  膝を折って
  床の上に散らばった
  数枚の紙の、種類をかぞえていた



  たえがたい白さは
  閉じたドアを容易くすりぬけ
  光へと落ちぶれ
  痩せた手の甲に ....
  椅子の上に
  左脳がひとつ置かれていた



  色褪せた譜面から
  いくつかの音符はこぼれ
  床のうえでひょこひょこ跳ね
  透き通った窓は、わたしたちと
  青 ....
  夜半、
  食器棚の中に
  銀色の双眸を宿した
  生温い女がはいっていて
  その白い吐息は
  ガラスの扉を曇らせていた



  他にはいっていたのは
  腐っ ....
  女よ、
  きみが
  歪んだ嘘をついた日には
  茂る緑の淡い影を
  湿った風が揺らしていった



  それが
  すっと吹きやむのを待って
  赤い土のうえに、 ....
  ねえ
  これが、
  産まれたての時間。
  そう言いながら少女が
  綿飴をひとつ、ぼくにくれた



  まぶしい屋台の{ルビ犇=ひし}めき合う
  貧しげな七月の ....
  夕方の台所で
  君を抱きしめた
  つらいことが沢山あったし
  他にどうしようも無くて



  火にかけたアルミ鍋から
  醤油の優しい匂いがただよい
  嗅ぎなれ ....
  空の蒼い日
  乾いた独房に
  ひとふさの春が投げこまれる
  赤錆びた格子窓の向うから
  透明な一枚の手によって



  そこには誰も居ないので
  やがて、壁の ....
  フローリングから
  朽木のような背骨が生え
  天井を突き破ったのが
  つい先日のこと



  割れ目から
  微かにのぞく青いもの
  青空と呼ぶには
  少し ....
  薄桃色の
  柔らかなパジャマ越しに
  君の左胸に
  そっと僕の手を置く



  温かくないけれど
  正しくもないし
  なんの役にも立たないけれど
  君にあ ....
  いいですか
  コンクリートの塊を
  右脳の隅に沈めておくから
  ちゃんと見ていてくださいね



  そう言われたのは
  日曜日のことだったので
  ひょっとする ....
乾 加津也さんの草野春心さんおすすめリスト(74)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
青空- 草野春心自由詩615-7-12
コールタールの夕ぐれ- 草野春心自由詩314-7-13
- 草野春心自由詩1014-5-21
カワウソ- 草野春心自由詩414-5-21
羊の影- 草野春心自由詩914-4-20
工場- 草野春心自由詩10*13-9-1
マフィン- 草野春心自由詩813-7-13
夏草- 草野春心自由詩713-6-1
- 草野春心自由詩613-4-10
水のありか- 草野春心自由詩413-4-4
座布団- 草野春心自由詩1113-3-28
- 草野春心自由詩613-3-3
問いかけ- 草野春心自由詩813-2-3
投票所- 草野春心自由詩612-12-23
- 草野春心自由詩812-12-9
カップボード- 草野春心自由詩5*12-11-24
ねぐら- 草野春心自由詩612-11-10
白い馬- 草野春心自由詩8*12-10-23
秋の夢- 草野春心自由詩912-10-10
ことのなりゆき- 草野春心自由詩1212-9-20
紙の種類- 草野春心自由詩5*12-9-16
左脳の時間- 草野春心自由詩1112-9-2
生温い女- 草野春心自由詩812-7-25
- 草野春心自由詩812-6-23
綿飴- 草野春心自由詩19*12-5-20
若さ- 草野春心自由詩13*12-3-24
独房の春- 草野春心自由詩9*12-3-17
背骨- 草野春心自由詩8*12-3-8
あげる- 草野春心自由詩7*12-3-1
コンクリート- 草野春心自由詩8*12-2-23

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