独房の春
草野春心



  空の蒼い日
  乾いた独房に
  ひとふさの春が投げこまれる
  赤錆びた格子窓の向うから
  透明な一枚の手によって



  そこには誰も居ないので
  やがて、壁の隙間から
  或いは固いベッドの中から
  小さな緑が芽吹き
  女のうなじによく似た
  凛とした香を添えて
  桃色の花がそっと開くとき



  独房は
  春だけのものになる
  そこには
  誰も居ないので





自由詩 独房の春 Copyright 草野春心 2012-03-17 10:53:18
notebook Home 戻る