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くしゃみをひとつする、と
私たちは地球儀から滑落して空に溺れる
あの日グラウンドから送った影は
手をつないだまま鉄塔に引っかかっていて
捨てられたビニールのレインコートのようだった
バス ....
こんなふうに暑い日が続くと
思い出すことがあるんだ
外には夏の光が溢れて
田圃の青も
入道雲の白も
痛いくらいにくっきりと鮮やかに立ち上がる季節に
俺はただ
泳ぎたいだけだったのかもしれ ....
夜明けとともに
目的もなくふらふらと
外を歩いてみる
そこの夏は冷たかった
葉の上の雫に触れ
その一瞬にしかない冷たさは
手のひらの中で
やがて消えてゆく
川のせせらぎの音も
....
夜の列車から見るその風景は
何も動いていなかった
駅を出発してから
ずっと走り続けている
次の駅はもうすぐなのだろうか
それも定かではない
四人がけの座席に
自分だけかぽつんとだけ
窓 ....
お父さんが紙をつくってる
つくった紙を僕が並べていく
それがお父さんの廊下
なんだか淋しいところだね、と言うと
お父さんは土を持ってくる
足りないので
何回かに分けて持ってくる
だからお ....
未来と希望がついにかつての方角に行ってしまった
自分たちのことを、あまりに抽象的に語る若者たちに辟易したのだという
「僕たちはもっと実体を持った形而下的存在だ」と未来が苦虫を噛み潰したような表 ....
2000/01/08
素敵なニヒリズム
笙の笛
名も無き馬が
オホーツク海の
放牧場で草を食む
食べ飽きて海を眺める
凪いだ海面は鈍く光り
濃紺の海が見つめ ....
おかあさんの肖像画は
ひきだしの中の一番濃いえんぴつで
曲線をつかって描くの
まぁるくまぁるい
頬や、腹や、てのひらを、
言葉や、仕草や、表情を、
やわらかい筆先でよびおこす
....
おまえの乳房の形をたどって
月が闇に向かって死んでゆくぜ
ほら
見上げなよ
あんなにも
雲と星屑に讃えられて
死んで
このふしだらな世界からいなくなっちまうなら
....
まだらな夕焼けが
きりっとした一本の藍色に
移り変わっていく、その頃
帰り道のファミリーレストランに
今日も大きな桃のネオンが点る
今日はごめん、どうしても
僕には行くことができなかっ ....
*
魚は酸素を知らぬだろうか
暗い水辺に輪を描いて
あんなにも深く潜ってゆく
*
飼育係は放課後に
飼っていためだかを流してしまった
閉じ込められてるのが
可哀相だったって
....
・
林檎は何時でも
小気味よい音を立てて
裸になってくれる
こんな女の人がいたらいいなと思う
十月の昼間は少し暑くて
隣家から
おもいっきりテレビの音声が聞こえる
シンクには
小腸み ....
鏡の迷路で
みうしなったら
うしろむきに 夜の
斜面で 滑ってみましょう
こわれたのが わたしです
死が芽生える時刻は
まよなかだけではない
少年の空想の内でも
子を産むこともまだ知らない
子宮の中に 細胞
は もう芽ぶいていた
医者が論文を書いている間に、
家族が茶漬けを食ってい ....
お前にそっくりな
ひよこ豆をゆでる
おまえにそっくりな
ちいちゃな鉤鼻と
これまたおまえにそっくりな
ちいちゃなおしりがついている
圧力釜なら早いが
ああ、
それはぜんぶお ....
#01
心臓が
とまっちゃうほど
うれしい
なんて
恥ずかしくって
心臓が
とまりそうだよ
#02
いつかはこの魔法が
解けると思ったら
....
上京した弟が半年ぶりに戻ってくる
迎えに行くついでに挨拶に立ち寄った
離れて暮らす祖母の家
久しぶりに二人が我が家にやってきた
今夜はすき焼きとお寿司
コンビニ弁当とファーストフードには ....
目が覚めたらベッドにいたと言う方が
目が覚めたら浴槽にいたと言うよりも
自然なように
あなたの微笑みは
驚異的に自然だ
あなたは別れを告げに来たんだ
というのが今朝の大発見
乾い ....
ドビュッシーを聴く
なんとなくの気分で
なんとなくの夜
泳いでいると ちくり
ふいに
音楽が死んだらきっとかなしい
なんておもってしまって 私
父が
美意識の問題だね
といっ ....
売れ残った雑草区画の向こうに
陽が落ちようとしている。
今日は赤い平面円盤ではなく50億歳の核融合球体だ。
50億年前に地球は無かった。
50億年後に地球は無い。
単層の光の輪の ....
すれ違った自転車の子供を
振り返る
白線が
鮮明に割き続ける
通学路だったアスファルトから
子供たちの声が古いものから順に遠のいてゆく
肌で増殖する蝉の羽の ....
僕の血を吸ったばかりの
大きな腹をした蚊が
ベープマットの上を飛び過ぎて
週末に掃除しただけの木の床に落ちる
音はなく
羽ばたきもせず
すとりと落下した
自由落下のそのまんま
でも
....
デジタルは、夏の中
よせる波に追いつくスピード
で
車を走らせて
たどりついたなら
うすむらさきに暮れゆく
空と海のあいだを
歩こう
風にもゆるがない
涼しい背中
で
....
静けさに爪をたてるように
戦争という字を書く
音もなく
思いもなく
ただ戦争、という字を書く
限定された空に
浮かんでいる人を描く
....
本当のことをいえば
ほんとの私はこんなもんじゃない
すごいのだ
あたりの様子を伺いながら
どこかの家に入り込み何かを得ようとする野良猫のように
意味もなく尻尾を振り
くるく ....
となりのとなりのとなりのへやの
めざましどけいがなりやまないので
ゆうがた六時半にそとにでた
まだ日はしずまず
ふだんよりずっと赤いかおで
西のやまの端にキスするようだった
あんがいあ ....
干し竿に捉まったやかんが
風をすいこんで
ふるりゆれ
蓋はいつの頃にも
なかったようす
雲が影って
うつむき
口をぶらぶらしているやかんには
少し水が入っていて
のぞく顔を ....
あぐらをかいた男の人の
その太腿のあいだにあるその
小さな三角にすっぽりおさまるような女
でいたいのよ
あたしは人間
あたしは人間なのよ!
掴みたいもの掴んではなさない指だって ....
ゆらゆら揺らめく
かげろうの下にある水に入りたくて
僕は走り出そうとする
遠くに行っちゃだめよ
手を引き寄せられた
夏の日のいつか
日傘を差した母を困らせるなんて
したく ....
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