{引用=こうして綴るべきものたちは
とめどなく巡りめぐって押し花となる
慌ただしい時の合間に見つけた
ひそやかな灯りを
四季からの贈り物としよう
望むならば
手が届くほど近くに
揺らいだ ....
ほどけたこころを
むすんでつなぐ
針と糸で縫い付けるようにさ
お近づきになって
身だしなみ、整えてくださいますか
暴風雨が窓をたたいている
遠くで何かが燃えているみたいだ ....
春がその鋏をもって髪を切り落とすことで
年月はまるで少女でした
幼さ故に軽々しい
その唄声は温い雨
弾むような花の手を
この手で掴む術もなく
彼女は舞台袖から飛び出すと
馬を駆っ ....
線路脇に
薄紫の花が群れ咲く
春はこういうところから
姿を見せる
和らぐ風に揺れ
待ちかねた日を浴びている
「我等この花以上に何を知るというのか?」
花以上でもなく ....
君は
ひとつぶ
哀しみを
螺旋構造に宿したまま
この世に零れ落ちてしまった
ひとつぶ
君は
ひとつぶ
喜びの
光にくすぐられて発芽し
言の葉の二葉を広げてしまった
ひ ....
いのちの綱を両手で握り、彼は崖を登る。
時に静かな装いで彼は足場に佇む。ふいに
見下ろす下界の村はもう、{ルビ生=なま}の地図になっ
ていた(少年の日「夢」という文字を刻ん
だ丸石が背後の ....
{引用=捨て猫だった
やせっぽっちで
瞳ばかりが大きいだけの
頬ずりしたくても顔が小さすぎて
両手のひらにおさまってしまうくらいの
けれどあたたかな体温をもっていて
まるで熱のかたまりみた ....
{引用=
白夜に立ち尽くす
冷えた足取りで
散り散りになった落ち葉を拾い集める
記憶を繋ぐ喪失の季節に
最愛を探す仕草だけが影を重ね
闇を深めてゆく
切り取れば
ひとつの証明にもなりそ ....
ほんとはね
で始まる話しは
電車が通過する風にとぎれた
あれって枯れてるのかな
ホームの外側の木を指す
一瞬
春の景色がふたりを包むから
黙って乗り込む
同じむきにゆられて ....
沈思する冬空に訊ねる
くろぐろとした予感がけぶるぬるみの中で
厳かな一つの意志らしき影
それは確信めいて
はっきりとこちらを見つめている
分厚い霧層に
初めて私が出会うとき
快活にう ....
暖房もなく、寒いよるには、
ちいさくなって毛布にくるまるのです
毛布はやさしいです
朝の梵鐘の音が聞こえると
お腹も空いてくるのです
やさしい毛布から脱け出して
ずうずうしいエアコンのセカ ....
逆さまなだけでただ長い言葉が
ずっと居座って渋滞をつくる。
僕は何もできないので、何もしないでいた。
となりの席で寝ている花瓶は
今までに貯めこんだ愛を吐き出し、やがて枯れる ....
空が削られる
パラパラと降ってくる削りかすは
鉛筆のそれに似ている
積もることもなく
街の音を少しだけ消していく
人々は傘をさす
溶けていく空の断片を吸って
傘は成長を続ける ....
いくつもの気持ちが空のふちを彩って、あさ。
燃える気持ちも、冷えて凍る気持ちも。
空白も、郷愁も、憤りも、悲哀も、すべて携えて、あさ。
別れのように、あたらしい出会いのように。
両極も、矛 ....
 
 
欲望にはかなわずに
まあその辺は
勘弁していただいて
いくつかの
間違いもございましたが
おかげさまで
今こうして
なんにもない、に
なりました
とで ....
ぼくは遠い火になりたかった
ビルのかげや
山のむこうで
ちらちらと
ときおり
消えたみたいに見える
ながくながく燃える遠い火に
....
{引用=
朝踏みつけにした
雑草の類が
帰宅したわたしを出迎える
見たことのない色を咲かせて
そういえば今日は蟻の行列をかわして
いくつかの水溜りで足を汚した
後悔しなくて済むよ ....
耳を立てて
虹の匂いを嗅いでいる
そのとき
雲を背負って
ぼくらの原始人が現われる
原始人はときどき血痰を吐く
ひそかに獣を食ったのかもしれない
あるいは体の中に獣がいるのかもし ....
今日がしぬとき俺もつれていってほしい
――青空に白く輝く雲の塔
降りしきる蝉の声
激しい夕立
長い夕映え
潤むような硝子の星々――
見えない額縁に
あざやかに切り取られた
今この時 に
記憶と予感とがふ ....
眠らないバスにのった
眠れないぼくは
あの野性化した雲といっしょに
あかるい夏の海辺をどこへむかっていたのだろう
写真でみただけの
マリアナ諸島の鮮やかなブル ....
【それぞれが戦う理由について】
誰しも好きで戦場に立った訳じゃなかったんだ。
争えば体は傷ついて血を流すし
後には心を痛めることだって知っているから
本当 ....
{引用=
窓の外
ふるえていた風が
いつの間にか足元を這い回り
行き場をなくしてうろうろとしているので
夕刻、わたしは
ゆるやかな地平の傾斜に沿って
飛び込んでくるひかりの粒の ....
蝶
小さい頃
簡単に見つけられていた
色のない蝶々が
最近見つけられなくなってきた
視界の端で
鋭利に騒ぐ蝶々を
捕まえてはネットの中に
押し込めることを
よく していた ....
窓のこちらがわには 窓枠と わたしがあり
窓のむこうがわには 「遠く」が散らばる
「遠く」は みわたす限りに遠く
わたしには ただ罪があり
灰色の部屋には ドアーがない
わたしは ....
凍えた風が沈んでいる
店は仕舞っている北の街
凪いだ心の奥底で
ふつふつと涙が湧き出てくる夏
君がいなかった頃
この街で
僕は鮮やかな夕陽を見たんだ
それはぼんやりと
童話 ....
碧く淀んだ沼の天空に
鈍く光る月明かりを
じっと受けている猿一匹
沼の水面から首を出し
辺りに潜む得体の知れない瘴気を伺い
この沼が池だった頃の
(猿の)古老の話を思い出すも
早くこ ....
見慣れない電車を
何度も乗り継いで
見知らぬ人達に
何度も道を尋ねて
見惚れた造花で
何度も指を切って
見損なった夕焼けを
何度も何度も許して
やっと辿り着いた
近所のコンビニで
アイスクリ ....
瀬戸内の海辺からは
ぼんやりと霞んで
青い島々が見える
潮が満ちてくる頃には
波に防波堤が
飲まれそうになることもあるが
それでも
外海や日本海の波に比べたら
穏やかなもので
停泊す ....
それは誰かにとどけ忘れた
たとえるなら即効性の
殺意みたいなものによく似て
河原で骨になった
後ろ足が一本欠けた猫の
雨に洗われた眼窩の悲しさによく似て
真夜中にだけ客を探す
....
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