この手から放った
いくつものテープを握りながら
私を見送る人々が
埠頭に小さくなってゆく
船は往く、二度と戻れない国へ
別れのテープは千切れても
消えない人の契りを胸に ....
予め
蕾は刈り取られていた
頭上を
越えていった
鳥の名前を知らない、
車輪のあとに立ち尽くす
わたしの肩を抱いて
そっと
目を伏せたあなたの
手と、
手を
重ねると
....
「海」を書いたら「波」があらわれ
「雲」を消したら「光」がさした
「木」の上には「鳥」がさえずり
「春」の木陰 疲れた「君」がねむってる
「ぼくらあの大草原の小さな家にふたり仲よく暮らそう ....
雨がよろいをとかす
ぴしり 心がひび割れる
雨の中歩いているのは
まるで自分ひとりみたいに
傘は
シェルターのように隠す
それぞれの顔を
背景を
雨はどこからきたんだろう
....
こよい 空は銀の帯をすべらせ
欠け月を髪に飾る
{ルビ鞣=なめ}された夜の下で
仄かに光りながら伸びる翡翠の茎
その先端に やがて冠のように開く
月光を凝らした白い花
ひとしずくの涙を ....
猫、草きれ、子どもらの
影法師だけが揺れている
主はどこへ行ったのか
影はゆらゆらと変容す
猫はいつのまにか草きれに
草はいつのまにか子どもらに
子どもはいつのまにか大人の胸もとに
アイ ....
遠くで黒い煙突が三本ぼくらを眺めている
カラスが夜を迎えにいく少し前に
船の汽笛が鼻をかむ
ポロー ポロー ポロー
遠吠えしている喪服の野獣は
煌めく闇を愛すと叫び
....
雲が ぶんぶん飛んで行く
クローゼットに投げる 枕みたいに
川が びゅんびゅん流れていて
魚たちは 光のようなスピードで 海に殺到する
せわしないな
かみさまが 居眠り運転をして
....
ヒグラシの虫かごを片付けながら
また来ますよ と夏が言ったので
私は わかってますよ と返した
入道雲と夕立も出ていくみたい
いつも 夏は勝手にやってきて
小さい 秋を残して ....
時の器に
夜がすこしづつ満たされていく
眠りついた月の横顔
埋もれた砂時計の砂丘は、はだしのぬくもり
天よりふる砂を見つめては
閉塞されたガラスにふれる
砂の音はや ....
つゆは丸く形をつくって
朝陽を微かに帯びる
土が膨らみ そこから
産毛の生えた芽が覚める
畝を越えて川を走り
山を駆けて峠をとびこえ
叫び声をあげて黙りながら
静かに賑やかに厳かにばかば ....
世界にはたくさんの場所があり
たくさんの営みがおこなわれている
その日、僕が
することを選んだのは
床屋に行き
髪を切ってもらうこと
ひどく ....
薄雲る空のおかげで
暑さもほどよい今日の昼下がりに
僕はリルケを買いにくり出した
風はゆるやかに吹いて
立ち枯れる紫陽花の儚さに
詩のような匂いを吸いながら
夏は光の浸透を細や ....
石ばかりの街に
ひとしきりの、 雨
刈り上げた項を
さぁと風に撫でられて
今を知る
そんな雨のような
人と紡いだ記憶に
支えられながら
僕は在る
小さな苦し ....
目の前の何でもない風景は
独りの画家が絵筆を手に取れば
真っ白なキャンバスにあらわれる
一枚の美しい夢になる
たとえばそれは
{ルビ陽炎=かげろう}揺らめく夏の坂道を
杖を ....
夏が白い叫びをあげて走る
雲は低く雨粒はトタンに融ける
小さい足にサンダルを履いて
横顔を向けたままの子どもたち
ある朝の瞬きに
影へと消えた子どもたち
知らぬ間にそれは熱 ....
風の音が思い出を誘う夜
必ずあらわれる風景がある
真夏日の続く乾ききった夜
眼下に輝く星を
飽きもせずに眺めていた
神様のイキなはからいか
星は様々な色に輝いていた
星だったか?
....
死ににいく気は無いけれど
だんだんこの身は朽ちていく
日毎にガタつく体を持って
私は少し佇んだ
その折偶然あなたに会った
あなたは障害を持っているのに
生きている事を全身で ....
夏のお空は賑やか
雲の鯨が群なして
北さしゆっくり泳いでく
夕べ摘まれた胡瓜はポリエチレンの中
萎れた黄色の花を畳んで重い体をしんなりと
むらさきの影踊る無人販売所
朝の優しい静け ....
いつも見ている山が、きょうは近い。
そんな日は雨が降る、と祖父が天気を予報する。
大気中の、水蒸気がいっぱいになって、レンズみたいになる。と誰かに聞いた。
山の襞が、くっきりと見えたりする。
....
燃え{ルビ滾=たぎ}る汽車が
青白い草原の海を駆け抜ける
焼き切れぬ想いを馳せた
米粒ほどの露の身を乗せ
今日も間引くことなく 汽車が走る
私達では この手で{ルビ掬=すく}えなく
....
青らむ、夏の
わたしの首すじ に
風がひそかな挨拶をおくる
揺れやまぬ草の穂先のいじらしさ
痺れた指でもてあそびながら
あなたのことをかんがえる
青らむ、人の
まなじりの ....
死期を悟ったと言って
父は仕事を辞めた
これからは好きなことだけして暮らすぞと言って
山奥の民家を買い
池と鶏舎つきだぞと笑った
週末に会いに行くと
家の改修を手伝わされた
鳥の世話も鍬 ....
きょう、詩を投稿した。
もう、あとは何もない。空っぽ。空虚。おしまい。
そのたびに、もうあとは何も書けないと思う。今まではなんとかなった。だが、この先はなんともならないだろう。いつも、そう思う。
....
シヨウスルとは
二つの矛盾した概念を
矛盾を抱えつつ
さらに高い段階に統一すること
らしい
例えば臆病な人間が時に無謀な行いをするのをキレるという
これは短絡しているので
臆病と ....
公園の広場で 黄いろく飛び交っている
「もう いぃかい」
「まぁーだだょ」
おらもかくれんぼに加わる
「もういい かい」
「まだまだだよ」
(生涯の隠れ場所が探しかねて)
....
日曜日、
くさかんむりの広がる野原で
ピクニックをする
あなたは適当なところに
持ってきたもんがまえを敷いて
ここに座りましょうという
おべんとうよ、と
....
歩かなあかんと思ってきたけど
歩きたいって思えたらいいな
立ち止まってもかまへんな
うずくまったら
だいじょうぶか?と
きいてくれる人もおるねんな
おんなじ背中があったなら
一緒 ....
つまらないことをしては 美しさを忘れ
また置き去りにしている 奇跡のとき
どこまでも追いつけない 船にふたりは
のっているのか それとも ひとり小舟で
沖にゆれる 鐘の音も届かない 隔たり
....
ただ 紺 としか言いようのない色の
ベニヤのようなうすっぺらい壁面の上に
サビだらけのトタン屋根がふわりと乗っけられている
建物そのものが 甘く針金で結わえられて
地球の上に ふわりと ....
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