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休日はらんぷの灯の下に
古書店街で買った
古びた本の、頁を開く
少し引っ張れば
すぐに千切れてしまいそうな
薄茶けた頁に並ぶ無数の黒字は
遠い過去から語りかける
音の無 ....
僕は今、多摩の乞田川沿いにある喫茶店で、
この手紙を書いています。時計の針はすでに
正午を廻り、歓びの時が近づいているのを感
じます。木目の壁に掛けられた額縁の中の水
彩画は広い草原で、若い ....
車窓から眺める市役所の
時計の針は17時47分
僕は夜の映画館に向かって
ゆっくり走るバスに揺られながら
先生と再会したひと時を思う
日中、母校の校長室で会った先生は
....
誰もいない静かな部屋で
時折鏡を、覗いてみる。
目はふたつ
鼻はひとつに
口ひとつ
奇跡を行うこともなく
些細な魔法もわからずに
背伸びをするわけでなく
....
チェーン店のカレー屋で
「グランドマザーカレー」
を食べていた
自動ドアが開き
ヘルパーさんに手を引かれた
お婆さんが店に入り
隣の席にゆっくり
腰を下ろした
....
くたびれた足を引きずって
いつもの夜道を帰ってきたら
祖母の部屋の窓はまっ暗で
もう明かりの灯らぬことに
今更ながら気がついた
玄関のドアを開いて
階段を上がり入った部屋の ....
傾いた標識に凭れる
私のうつむく影が
夕暮れ色の地面に、伸びていた。
ふいに顔を上げた目線の先
小屋に並ぶ
七つの地蔵の真ん中に
ひとり
鼻は砕け、片目を開いた
風 ....
夜道に浮かぶ洋燈は
硝子の裡から暗闇を
今夜も仄かに照らし
人の胸にぽうと灯る
たましいの面影です
地下鉄の風に背中を押されて
階段を下れば
ホームの端を
黄色い凸凸道が
何処までもまっすぐに伸びていた
いたずらな風が
吹けば
すぐによろつく私だから
凸凸道の内 ....
もし(まことの人)がいるならば
一体、どんな面影の人であろう?
彼は、この世の体という{ルビ着包=きぐる}みの内に
薄っすら透けた(もうひとつの体)を
宿している。
机上に丸 ....
祖母がこの世を去る朝
何処か遠くへ
吸いこまれそうな場所から
必死で僕の名を呼ぶ声に
目を覚ました
数日後、教会の告別式で
神父は聖水を遺影に撒いて
額に納まった祖母の笑 ....
「 いってきます 」
顔を覆う白い布を手に取り
もう瞳を開くことのない
祖母のきれいな顔に
一言を告げてから
玄関のドアを開き
七里ヶ浜へと続く
散歩日和の道を歩く
....
少し前まで{ルビ賑=にぎ}わっていた
デイサービスのお年寄りが帰り
部屋ががらんと広くなった
{ルビ掃除=そうじ}の時間
いつも掃除機をかけるおばちゃんが休みなので
「じゃ、俺 ....
今年の幕開けとなる1月18日(日)の笑いと涙の
Ben'sCafe・ぽえとりー劇場で朗読したとものさんの
「crescent」という詩は、テキストとしても朗読とし
てもとものさんの詩の世界の魅 ....
駅のホームに
四葉のクローバーのペンダントが
落ちていたので
思わず拾い、ポケットに入れた。
幸せというものが
一体何なのか・・・?
未だに僕は、わからない。
四葉 ....
川の向こう岸に
「矢切の渡し」と赤字で書かれた
白旗が
緩やかになびいている
広々とした土手に座った僕は
右半身を暖かい日にそそがれながら
左半身を冷たい北風に吹かれながら ....
先輩の女性職員が
傘も差さずに
雨の中、楽しげな小走りで
施設の入口に入っていった
来春寿退社する先輩は
そうして幸せの入口へ
姿を消してゆくだろう
僕がまだ2年目 ....
もし愛というものを
真正面からみつめたら
それは幻と消えるでしょう
もし愛というものを
少しずらしてみつめたら
うっすらと立つ
透明な詩人像は
僕等の前に両手を広げるで ....
天丼のどんぶりを空にした後
海老の尻尾をふたつ
ちり紙の上に並べたらじゃれあい
嬉しそうに光った
都会のビルの幻影に
透けて見えるは
幾千の顔々埋まる
墓地の群
電信柱の頂に
舞い降りた一羽の烏
びゐ玉の
澄んだ瞳に映るは
過ぎし日の
東京に燃え盛る
....
風邪が流行ってきたので
今日もデイサービスにやってくる
お婆ちゃん達が
がららららっ てうがいできるよう
蛇口から水を流して
大きい容器に水を入れる
からっぽの空洞を ....
職場の休憩室で
目覚めた朝
ふいに手を見ると
午前零時過ぎまで残業した
昨日の仕事をメモした文字が
手の甲に薄っすらと残っていた
昨日がどんなに忙しかろうと
昨日がど ....
渋谷駅前広場に置かれた
緑のレトロ電車に入り腰を下ろせば
クッションみたいな長椅子は
日頃の腰の疲れを
吸い取るように暖かい
走ることの無いこの車両に
集まる老若男女は
....
今日は横浜スタジアム近くの
旧財務省?のZAIMという
煉瓦造りの建物の1Fにある
Cafeのオープンテラスに
詩人達で集い、
テーブルに置いた灯を囲んで
詩を読んですごしました。 ....
屋久島の暮らしでは
無数の鯖が
村人達の手から手へとまわり
こころからこころへとめぐり
一匹の鯖を手に
樹木のように立つ老人は
不思議なほどに
目尻を下げる
夜明 ....
彼はいつも、四つ足を
ぴたりと大地につけている。
一体何が本当に
天から彼に
与えられたものなのか
ぢっと開いた丸い目で
夜の{ルビ静寂=しじま}を見抜く
蛙のよう ....
茨の針金に囲まれた
四角い土地に独り立つ、
蒼白の人。
棒切れの直立で、丸い口を開けて仰ぐ
空の浮雲
{ルビ人気=ひとけ}無い村の入口で番をする
飢えた牛の、細 ....
「オクターブ」という
ぼくの素敵な詩友の本
表紙を照らす
オレンジの陽だまりが
不思議な熱で
夏風邪に冷えたぼくを
温める
頁を開くと、追悼詩。
若 ....
人は、花としてつくられた。
翼を広げる鳥の旋回する
空が
地上に立って見上げる人を
咲かせよう
咲かせようとしている
花の顔をひらいて
人は
空を、見上げる。 ....
三日後にわたしは
三十三年間着ていたわたしを脱いで
風の衣を着るだろう
その時世界の何処かに響く
あの産声が
聞こえて来る
その時空から降る
透けた掌と差しのべるこ ....
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