賢治ノ星
服部 剛
地下鉄の風に背中を押されて
階段を下れば
ホームの端を
黄色い凸凸道が
何処までもまっすぐに伸びていた
いたずらな風が
吹けば
すぐによろつく私だから
凸凸道の内側を
踏み越えぬよう
無心で歩いてゆけばいい
( ほんとうはもう
( 銀河を走る列車以外に
( 私の乗りたいものはない・・・
地下鉄の風に抗いながら
階段を上がれば
地上の歩道を
盲人用の凸凸道が
遠い暗闇に向かって刺さっていた
気まぐれな風が
吹けば
道を踏み外す私だから
もしも脱線した時は
何度も戻って
また歩きなおせばいい
( 擦り剥いた膝小僧に血を滲ませ
( 独り哂って立っている
( 私はデクノボウの化身です・・・
今夜も頼りない後ろ姿で
とぼとぼ歩くこの背中を
不思議な夜風の掌が
いたわるように
押すのです
誰一人いない
冬の深夜の冷たい道に
独り立ち
オリオンを仰ぎながら
音の無い声で( 賢治さん )と叫んだら
冬の星空の間に
一瞬
流れ星が、尾を引いた