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夜の中心に置かれた
玻璃の器の中で
微光を放っているのは
誰にも問われることのなかった
ひとつの答えである
僕らは終わりゆく夏の片隅に凭れている
空中に半透明の骨がいくつか漂っている
(時々うっすらと虹色を帯びて見えたりする)
何が朽ちたあとに残った骨なのか などと
僕らはもう考えることもな ....
僕らは名づける
僕らの世界のあらゆるものに名づける
僕らの世界が傷ついても
その傷にもやがて名づける
僕らの世界が変わってしまっても
その世界にやがてまた新しく名づける
僕らは名づけ ....
世界の果てに 椅子を二つ置いて
暮れつづける夕暮れと
明けつづける夜明けとのあいだで
いつまでも 話をしていよう
目を閉じて
果実たちの歌をうっとりと聴いている君の午後
に あたり前の登場人物のようにとどまっていたいのに
何故だろう砂のようにこぼれてゆく僕の輪郭
すっかりこぼれてしまう前に
君に気づいて ....
君と会ったら
君と交わす言葉で
森を作ろう
いろんな樹がざわめいて
ざわめきの中から 光がこぼれてくる森を
君も(そう 君でさえも)
僕を救うことはきっとできない
けれどそれでも君が ....
僕の住む街の近くに
緑の草におおわれた丘があって
その頂には飛行船のなる樹が立っている
枝々に
最初は小さな小さな 飛行船がぶらさがって
そして日に日に 少しずつ大きくなってゆく
その ....
見わたす夕空は
{ルビ菫青石=アイオライト} {ルビ藍晶石=カイアナイト} {ルビ天青石=セレスタイト}のモザイクです
君の微笑みに
さびしい火がともります
ああそのせいか
君の黒い外套 黒 ....
壊れた時計をいくつか
この部屋に飼っているので
どうやら時空にちょっとした罅が入ってしまったらしい
ふいに宙の思いがけないところから
時ならぬクロッカスの花が咲いたり
誰のものとも知れぬ指た ....
頂点を仄青く明滅させる三角形が
部屋の片隅に居る
銀のお手玉をしながら
華奢なアルルカンが宙を歩いて過ぎる
星のいくつかが
音符に変わり また戻る
硝子瓶がひとりでに傾き
グ ....
皮膜を張った空に
午後の白い陽は遠く
道は続き
かつてこの道沿いには
古い単線の線路があり
そしてこの季節になると
線路のこちらには菫が幾むれか
線路のむこうには菜の花がたくさん
....
ひとり夜を歩く
頭上には
ペガススの天窓
自分の足音が
なぜかしら胸に迫る
何を思えばいい
何を どう思えばいい
道は暗くしずかに続いている
心をどこに置けばいい
心をどこに ....
身のまわりの色彩が不思議と淡くなる夜
胸のうちに浮かぶ
いくつかの
花の名
鍵盤をやわらかに歌わせる指たちの幻
夢のうちを
あるいは予感のうちを
あえかにかすめていった 星のよう ....
マリオネットたちの仮想的革命が
左心房をよぎる
窓の外では夜の街が
書き割りのように翻る
カレイドスコープの中で廻転するのは
天使たちの落とした翼が
あまりにも降りしきっていた日々だ
知 ....
屋上の青空
風向風速計
一日にいくたびも南中した
僕らの無邪気な太陽
けれども胸は 青く傾斜してゆく 怯える意識には
透明なふりをする思惟が 蔓草のようにからみつく
窓の外では 涙のように 果実の落下がとめどなく
そのさらに遠く 地平の丘の上では 二つの白い塔が
....
わたしたちは 底悲しく
わらいあう
そして指をつなぎあい
小径をゆく
菫の花がそこかしこに
ふるえるように咲いている
わたしたちは 歩きながら
優しげに 言葉を交わす
でも気づ ....
しんえん と呟きながら
浅瀬をえらんで 辿ってゆく
夢をつたうひんやりとした風が
時折 うなじに触れてゆく
誰かが指をつないでくれているような
そうでないような気がする
深淵
踏み込 ....
やわらかな午後の風が吹きこむ窓のそばの
薔薇色の安楽椅子でまどろんでいる地球に
影をもたない人がひとり そっと近づいて
あえかな接吻をひとつ 残して立ち去った
....
{引用=*四行連詩作法(木島始氏による)
1.先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、あるいは反義語(反義句)を自作四行詩の第三行目に入れること。
2.先行四行詩の第四行目の語 ....
菱形の額縁に入れておいた
つぶらな瞳をもつ心臓が
ある日 部屋からいなくなっていた
少しばかりそのあたりを探したけれど
見つからないので
仕方なくいったん部屋に戻って
お茶を飲んでいると
....
また夏がめぐり来て
空も緑も色深まり
光と影が幻のようにあざやかに世界を象っています
夏の花々も色が強く
私には似合わないのです
降りそそぐ{ルビ眩=まばゆ}さと熱にも
ただただ圧倒さ ....