春の額縁
塔野夏子

菱形の額縁に入れておいた
つぶらな瞳をもつ心臓が
ある日 部屋からいなくなっていた
少しばかりそのあたりを探したけれど
見つからないので
仕方なくいったん部屋に戻って
お茶を飲んでいると
何くわぬ顔で帰ってきた
あるところで
チューリップの花を見てきたのだ
とだけ云う
そうか とだけ返事をして
先日買ったばかりの正三角形の額縁を見せてやると
気に入ったふうなので
今度はそれに入れてやった
すると心臓は
地球みたいに自転をはじめた
つぶらな瞳を
時折またたかせながら

今度はチューリップを買ってきて
そばに生けてみようかと思う
たしかに似合うかもしれない





自由詩 春の額縁 Copyright 塔野夏子 2007-03-25 14:06:15
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