微かに本が吐き出していた
縁の糸に絡み取られたように
また
導かれた一冊の詩集

図書館で目にすると
迷いもなく借りてきた


けれど貸し出し期間の半分が過ぎても開けず
10日が過 ....
「我は人間か機械か」

私は天井を仰ぎ、自らに問うた
ヒトと言う形を持ちながら、心には穴が開いている。
心に穴を開けたのは他ならぬ人間だ、そして壊れたのもまた人間である私だ。
私は代替として ....
全ての始まりと終わりのボール
そのボールを中心点としたいくつもの同心円
全て円に支配されている空間
ピッチャーの描く楕円の軌跡
その楕円の頂点で極まる静寂
投げ放たれたボールは円錐形の衝動の ....
鳥と話が出来たら、教えてやろう
 あの明るいのは火星で、地球と同じように岩の塊で、
 風が強くて、とても寒い
 その先の木星はガスの塊で、すごく大きい

鳥は言うだろう
 そりゃぁ、すごい ....
 
ハスキーな瞳の夢を抱いて寝る執行猶予がきれる前の日
 
エイエムと言う名の午前に永遠と言う名の嘘に呑み込まれそう
 
街灯に群がるみんな寂しがり だからそんなに独りなんだな
 
 
 ....
妻が増殖しているのを
街で見かけた
その数はおそらく
億単位だった

そしらぬ顔で
妻が帰ってきた
一人だった
いつも通り
二人で夕食を食べた
お母さんが本当は
恋愛結婚だっ ....
{ルビ爪先=つまさき}から {ルビ水溜=みずたま}り

{ルビ顛倒式=てんとうしき}には {ルビ白=しろ}い{ルビ手袋=てぶくろ}を{ルビ嵌=は}めてください

{ルビ空=そら}が{ルビ綺麗= ....
なんだかんだ言いやがって
テメーだけ大人の振りすんな

テメーの見え透いた
その薄っぺらい自尊心の方が

俺の言葉遣いより
汚らしいぜ

悟った振りして
ふざけんな

いい人ぶ ....
「万物には形式がある。形式は必ず崩壊する。万物は崩壊する。」
(ーー吾妻滋郎著『認識の基地』序文より抜粋)



目玉焼きを焼いていた。

朝は数時間前に昼となり、
皿に向かう私の寝 ....
家庭崩壊 間際に、パパは今その団欒を取り戻す準備
夕食さえ愛せれば早く帰るだろうけど、ママの手料理じゃマズイ。

社会崩壊 間際に、社員は今その原稿を見直す準備
残業も愛せれば出世するんだろう ....
そこは空かと問うたなら
鳥はきれいに黙して
はばたく

そのたび言葉は
空から遠いわたしの胸を
いやしの為に
傷つける


 幻はまだ
 あこがれとしての痛み

 選 ....

家を出ると
道端に
無数の舌が落ちていた

赤信号が
誰ひとり停められなくて
途方に暮れているような真夜中だった

舌たちは
うすべにいろの花のように
可愛らしく揺れなが ....
壊れなかった夜に
あなたの乳房の中で
浅い眠りに落ちていったのさ
どうしたって壊れなかった夜に
あなたの薄い乳房の中で
夢も見ないような眠りに
落ちていったのさ

朝は狂わないままにや ....
夏の終わり

りんりんと鳴く虫の音の響く夜の淵

なまあたたかいぬめり気が
頬をなでる



セックスを終えてアパートを出た後の
このにおい

夏のにおい、のような
記憶のか ....
扇風機止めて静まる夜更けかな 自転車に乗って走り出したときに浮かんだのは 北へ向かうということ
人は逃げるときに北へ向かうものだと誰かが言っていた
それが本当かどうかは分からない
ただ 僕は北に向かおうと思ったし 向かってい ....
深夜
三時半過ぎ
とじた商店前の
歩道にはパンの固まりが落ちて
蟻が数え切れない
ボヤけた視線を落とせば
地面が動いているよう
川のように
列をなして
五つ
うねって
さまざまに ....
もうすぐ 八月の空が
落ちてゆきそうなので
また わたしたちは言葉を選び
逃げる準備をしなくてはなりません

「またね」を 残してゆくと
来年は とても からっとした
笑顔が ぱぁっ と ....
優しいフリをしたあなたに
慰められたフリをした

このままそばにいてくれるフリをしたあなたに
大丈夫なフリをした

気を使うフリをしたあなたに
感謝するフリをした


部屋から出て ....
見送る後ろ姿のせつなさは
一瞬で泡となった
困り顔
つたない「すいません」
バスに乗り遅れたことを
早鐘打たせながら
感謝する
この人に乗り遅れてはいけないと
粟立たせながら
ココロ ....
机の引き出しに
ピストルを一丁しまった
これでよし

ピストルは人を殺めるために存在する
けれどそれを他人に向けることはなかった
滑らかな重みを持った銃口は
いつでも自分自身の頭に向けら ....
理解不能の川よ
わたしたちを隔てるならば
いっそ渡れないくらい
どうか深く暗く
光も届かないくらい
どうか広く遠く

自分を正しいと信じ込んだあなたは
戦うなと声を張り上げて

お ....
{ルビ蜩=ひぐらし}の鳴く 
夏の夕空に 
紅く滲んだ雲のシルクハットが 
傾いて浮かんでいた 

{ルビ鍔=つば}の下に 
もうこの世にはいない 
あの人の顔が 
見える気がした 
 ....
アポリアが首を擡げる猛暑かな ――わらった―――――――――――――――――――
―――――――――――――面白かった――――――――
―――――――それだけの――――――――――――――
――――――――――――――――― ....
ニヤニヤ唇をひいて
太陽が愛想振りまいて 
押し付けるんだ

「特別なことを やりなさい」

茹だった脳で
盲目の夢

誰も
みて
いやしない
夏の
隙間

みてよ
足から入り腕を出すと
ダンボールのほかは空ばかりで
おれは首のばし
下をのぞきこんでも
からり晴れわたり風鳴る底なしの

しまった
あれも連れてくればよかったと
ポケットの小瓶 ....
  「コンクリート・リゾート」


最後に僕がここに立った日
それはきっと、セピアンブルーの日
変わったものといえば
角のコンビニエンスストアの名前くらいで
もしかしたら ....
童子らの目耳は

この夏の石畳

思い出オーブントースター

海も蟹も

空も犬も

ふたについたアイスクリーム

チーズピザ柄 白のTシャツ

油クレヨンとろけて

 ....
水中ではうたもうたえない
だけど泣いたってわからない
ささやかなゆれはわたしの体温になって

さかなたちの集うよるがくれば
ふやけた指先からあふれていく
あらゆる目線の延長上 ....
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