自分磨き♪
藤原絵理子

疲れ果てて帰ると
男がにゃんにゃん擦り寄ってくる
うざー という顔をすると
男は しゅーん と窄まる

テーブルの上に包み紙
白い皿に茶色いパンのヘタ
とっておきだったのに
あたしのカレーパン

男が勝手にあたしのカレーパンを
食べてしまっていた
あたしは巨神兵に変身して
陽子収束弾を発射する

前の男のときはカレーコロッケ
その前のときは冷凍カレーうどん
カレーのせいで
男たちは去っていった

覆面をして入った立ち飲み屋で
酔いちくりんのおっちゃんが
‘どろん’ とした眼でからんでくる
「ええ占いのおばはん 教えたるわ」

アーケード通りの一本裏側
煤けた提灯や剥げかけた看板が並ぶ
おっちゃんは よろよろと千鳥足
真っ黒な洞窟に入っていく

「磨かんとあかんわ」
水晶玉の上に正座したおばはんは
あたしの顔を暫く見つめて告げる
この一言で五千円取られた

あたしは自分を磨き始めた
フィットネスに行って鍛造した
エステで体表面を鏡面研磨した
料理教室に通ってスループットを上げた

最近では
変身することもなくなった
磨いて磨いて磨いて 磨り減って
性器と子宮しか残ってない


自由詩 自分磨き♪ Copyright 藤原絵理子 2014-02-19 21:32:22
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