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冷たい砂浜に、誰か
体で泣いている
空生まれの灰が沈んできて
波へ死んできて
折り畳まれてゆく、その灰の
海はノイズだ
今は、眼を閉じて
耳だけの ....
秋に
葉と葉が
まだ生き合っている
その音が、して
その影と影が、あって
その匂いまでが、生じていて
生じては離れてしまうそれらが
見つめ合っていると ....
雲の
静かな暴走
高い青へ青へ
ゆけない、わたしの上に
上空があって
午後、
稲穂というよりも、風だった
肌が痛いほどの
午後だった、秋だった
その風 ....
カメラは、設置されていない
高架下に紛れてしまい印象に残らぬ翳りを
僅かに掲げ示するように頭を前後する
ぐず、ぐず、ぐず、と音を立てる老婆の喉は
翳りそ ....
どうしても肌寒い蟋蟀質の摩擦によって
むしろ冷却されるわたしたちは概ね
低温のまま一生を終える腹部だ
脆い部分からアルコール消毒されてゆき
ついには殺虫されてしいんとす ....
四肢を垂らし立ち尽くせば
卵は割られず何も加熱されず
窓硝子の北向け北に閉じ込められ
朝は有耶無耶のまま凝固した
無臭のお皿だけが、仄白い円形の
仄白い、せめても ....
空の瓶が
割れない、音
そして
割れる、音
そして
割れた、音
さ、ゆう、
往復の波で揺れるのは
左右の、
暗い曲線の、
たったふたつの、耳
....
しっとり、これは
濡れるために、素足
群れる草の土に冷たく踏み入り
行き場を失くしたことのない、
何処にも行かない、素足でした、濡れるために
こっそり、あれは ....
窓の
繊細な網目を透過し
すらすらと寝室の私の乳房へ浸透するのは
透明すぎるから、透明すぎるからです
空気中の夜
に含まれる鈴の
リ…
その中には、鈴、それは
リリ…
....
生まれてはじめてお付き合いをした男性が結婚したことを知った。当時は男性というよりも男の子だった。愛読書だと言い、『風の歌を聴け』を私にくれた。そうして自分の為に新しい本を買っていた。今も愛聴 ....
第三公園にて
子供たちの遊びがバタリと終わり
夕刻が全く遊びではなくなったころ
通称・動物公園、を
理解できずに正しく第三公園と呼んでいたら
わたしの待ち合わせだけが上手くゆかないまま
わ ....
蝋燭の炎が
自らのロウで噤むやいなや
細く白い一筋の上昇気流に紛れている、あなたの
残り香の腐乱による、鈍い苦痛を
わたしは貪ります
空耳に耽る耳には、耳の
幻 ....
未だ硬い、既に確かな
夏でもない、秋でもない、果実で
深緑は
瀕死であることを理解している
見上げれば、ひとつの一秒が
高速で遠のいてゆく
わたしは、何に対しても連 ....
例えば、ゆるゆる喉を下る
ぬるい水、ひとかたまり
心臓を掠めそうで掠めない
何処にも、何も、満ちない
真昼を怠りたくて怠る身体では
空ろまで無気力な
ほら、 ....
だって
どの午後にも
煩い色彩がありました
静けさは無く
とりわけ静かな白は無く
ぬるい絵の具にわたし
どうしたってなってゆくみたい、と
教わらなくても、 ....
光の
光りはじめと共に
鳥が始まる
朝の
あと、少しなんだ
四角い窓枠がなければ、人間を忘れられる
身体がなければ、わたしを忘れられる
朝の
鳥が始 ....
わけもなく
海に行かない
青ざめた
この肌の下の水脈に海の素質があるとしても
夏において
情熱的な、情熱的な
世界中の観察眼と観察眼が合い続けているとし ....
苦しげな雷鳴に飲み込まれ
灰色に溶けてゆく午後の中
向日葵の黄色の彩度が
浮いてしまっていて
それでも、向日葵は
いつまでたっても泣いたりせず
ああ、どうしてなの
滲んで ....
すれ違った自転車の子供を
振り返る
白線が
鮮明に割き続ける
通学路だったアスファルトから
子供たちの声が古いものから順に遠のいてゆく
肌で増殖する蝉の羽の ....
光
清い、白の
まだ濡れている
瑞々しい、ナイフ
フォークの曲線
その後の先端
グラス
の中の水
に落とした氷
純潔、純潔、純潔、衝突
高音 ....
明けて、色彩が始まり
かつて刻んだ果実の朝の瞬間に
黄緑色の芳香と共にかつてたちこめた笑い声が
初々しい果実として、生まれ変わっているのを感じるから
わたしは齧る
あ
ずっ ....
ぬるい雨に圧され紫陽花の青い首が舗道へ垂れています
私は待っています
触れてくれるでしょう、荒れたアスファルトの
えぐれたままの古傷に溜まる暗い水に、柔らかく
あまりに ....
夥しい夥しい直射日光で
アスファルトの明度が振り切れ
真昼は真っ白い暴力だ
私は激しい夢うつつに陥り
液化してゆくアイスキャンディを見下ろしても
何を思えばいいのか何も何もわ ....
無数のソーダ水の泡が
ソーダ水から夏へ飛び立つ
そのときの一頻りの冷たい破裂音を
私たちは聞きます
ね、
それは、模範的な別れの際だと
ほら、そのあとに残るぼんやりとし ....
きつく結う、
わたしの髪を、
わたしには見えない後ろ側で、
わたしの髪を、
きつく、結う、
その役目だった指々を、
ふと慕う、一日の終わりに、
嫌な煙草染みた髪を強く洗う、
....
しく、しく、しく、は
いつも夜で
いつも雨で
それらの夜の
それらの雨の
夏呼びの音が度重なり
しく、しく、しく、が、ひとつの
酷く暗い気体となり
ねえ、午 ....
帰り道は
ひとつの
冷たい時代でした
足音ひとつのアスファルトを、両側から
音も無く包んでいた夏野菜の畑
あ、それならば、と
或る母の或るひとつの手に
直 ....
たったひとつの日没で
子供の左の手の中の
逆さの野の草の束からすんなりと
午後の初夏は落ちてしまい
子供の左の手は
無数の落胆のうちのひとつとして
野の草の束を、用水路 ....
戸外の夜
の射し染む方角
の窓
の四角
の、薄く
薄く
映写された壁
を
爪が
物欲しげに引っ掻けば
聞こえるのは
爪が引っ掻いたその通りの
かり、 ....
淡い色の
薄絹の
蕾の、開くのと
同じ音の
朝が開いて
アスファルトの
日向には、金の時が
日陰には、銀の時が
満ちて
ああ
もう
これ以上幸福には
....
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