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きゅうりの抜けたかっぱ巻き
地面の上に口を開け
朝のひかりを吸いこみながら
しあわせそうに立っていた
ぼくもあんなふうに
哀しみなどには呆けたふりで
自らの中心を空にして ....
「免許を取るには、年齢位の金がかかる」
誰かさんが言ってた通り
33歳にして33万という金を
母ちゃんは惜しげもなく貸してくれた
二俣川で筆記試験に受かり
初めて免許を手に ....
人は、花としてつくられた。
翼を広げる鳥の旋回する
空が
地上に立って見上げる人を
咲かせよう
咲かせようとしている
花の顔をひらいて
人は
空を、見上げる。 ....
三日後にわたしは
三十三年間着ていたわたしを脱いで
風の衣を着るだろう
その時世界の何処かに響く
あの産声が
聞こえて来る
その時空から降る
透けた掌と差しのべるこ ....
こころをそらにすると
あるがままにうつるようになる
つくえのうえにちらばった
えんぴつやほんも
かっぷやすぷーんも
きのう
ぼくのむねにぐさりとささった
だれかのこと ....
{ルビ空=から}のビニール袋を
ゴミ箱に投げたら
口を開いて
ふわりと立った
すべてのもの
を
で
すいこみそう
気づくとぼく ....
何杯かの紅茶を
飲み終えた机の上に
本の積まれた頃
小皿の上に
時計回りで倒れ{ルビ萎=しな}びた
ティーパック
真ん中に置かれた
{ルビ空=から}のスプーンのみが
....
じゃじゃりり〜ん
紅茶が美味しい原宿のCafeで
初老の紳士が羽織ったジャケットから
小銭が床に散らばった
赤いチェックのワンピース
栗毛に{ルビ薔薇=ばら}のリボンを ....
亡き人を偲び
酒の机を囲むと何故か
予想外におまけな
一本のビールや
皆の和に
入りたそうな誰かの為に
余分なグラスが運ばれる
皿に盛られたつまみはどれも
....
わたしを囲む円周に
今あるべきものはすでに集まり
目に映る全てのものは
円周の中心にある
わたしをわたしあらしめる
蓄音機に針は落とされ
回り出 ....
わたしという
一人の凡夫は
目には見えない
風の絹糸で
見上げた夜空に星々の巡る
あの
銀河のメリーゴーランドと
繋がっている
旅先の古い駅舎の木椅子に座り
彼はなにかを待っている
別段何があるでもなく
時折若い学生達の賑わいに
花壇の菊の幾輪はゆれ
特別おどろくこともなく
杖の老婆はゆっくり横 ....
くるるるるるる・・・
羽ばたいて
空へ吸いこむ
黒影の
鳩の言葉は訳せない
one は one
一 は 一
「愛」 は 「Lo ....
心から重荷を取り除けない
無気力な秋の日
よい本を探しに本屋へ歩く
背後の空から
何者かが舞い降り
わたしの髪にのったので
{ルビ咄嗟=とっさ}に手を出し振り払う
....
わたしは怠け者であるゆえに
連休前に風邪をひき
おまけの休みの時間のなかで
らんぷ一つの寝台によこたわり
両手に持った本を開いて
在りし日の
詩人の哀しみを読む
....
人込みに紛れ
駅構内の階段を下りていると
背後に
「 だいじょぶですか 」
という声が聞こえ
思わず振り返る
車輪の付いた
買い物かごの取っ手を
細腕で握り
「 ....
( 世界は
( 透けた瓶の内にある
森の小道を裸足で走り
汗をかいたラムネの器の底を手に
真夏の空に傾ける
( 星のころがる、音がする。
{ルビ蝉時雨=せみしぐれ ....
車椅子に座る
小さいお婆ちゃんを
前から抱きかかえる
少し曲がった
「 人 」という字そのものに
なれた気がする
ごめんなさい、ごめんなさい
と繰り返すので
な ....
テレビをつけると
瓦礫の山から掘り出され
額に血を流した中年の女が
担架から扉を開けた救急車へ
運び込まれていた
その夜
テレビの消えた部屋で
歯を磨き終えたぼくは
....
寄り添う民は顔を並べ
一つの空を仰いでた
真綿の雲に腰かける
マリアに抱かれた幼子を
逆さのままに
舞い降りる天使等は
丸い顔で母子を囲み
小さい両手を重ねてた
....
犀川の
芝生の土手に腰を下ろし
静かな流れをみつめていた
午後の日のきらめく水面には
空気が入ってふくらんだ
ビニール袋が浮いていた
近くで
ぴちゃりと魚が
跳ね ....
よく晴れた日
玄関を開くと
小さい{ルビ向日葵=ひまわり}の植木鉢が
倒れていた
恋に傷つき震える
君のようで
ぼくは{ルビ屈=かが}んで
倒れた鉢を両手で立てた
....
ぼくの頭の修理を頼んだ
大工のたけさんが通った
「 ぼくの頭はやかんなので
やっぱり治さないでだいじょうぶ 」
「 あぁそう ならば
ちょっと不思議な部品を ....
風船の顔をした
君の彼氏が
口先ばかりの愛を囁くので
「 死にたくなった 」と
君は深夜のメールをぼくに送る
驚いて、瞳もぱっちり覚めたので
深夜の散歩で月を仰いで
川 ....
森に架かった木の橋に
父は手にしたカメラを構え
木漏れ日と葉陰の揺れる{ルビ袂=たもと}に立つ
妻と娘をレンズ越しに覗いた
シャッターを押した後
肩を並べた三人の後ろ姿は
....
「 この世の外なら何処へでも ! 」
という最後の詩句を読んだわたしは
「 転居先 」について考えていたが
そんな場所は、何処にも無かった。
日常から逃れるほどに
毎夜訪れ
....
路上に{ルビ棄=す}てられて
崩れた米の{ルビ塊=かたまり}
割れた破片のまま
空の雲を映す鏡
何事も無い顔で
わたしはそれらを通り過ぎる
遠く置き忘れた
砕 ....
一匹の{ルビ蝿=ハエ}は
羽を{ルビ毟=むし}られたまま
今日も曇天の街を漂う
迷い込んだ森の{ルビ裡=うち}で
湿った草の茂みに囲まれ
一輪の薔薇が咲い ....
プレハブの
休憩室の入り口に
日中の仕事で汚れた作業着が
洗ってハンガーにかけてある
ドアの上から照らす電球の
茶色いひかりにそめられて
干されたまま
夜風にゆられる作 ....
ある日の{ルビ些細=ささい}な出来事で
仲良しだった
AさんはBさんの陰口を
BさんはAさんの陰口を
別々にぼくの耳は聞いていた
夕暮れの
空気のはりつめた部屋に
Aさ ....
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