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耳鳴りが気になって眠れない
そう言う君の耳に自分の耳を当てて
同じ耳鳴りを聞き続けた
あれしたい、これしたい
語り合う夢はまだまだある
この年になればいっそのこと
実現しない無 ....
薄く、もやのかかる、まだ暗い午前5時。
隣に眠る彼を起こさぬよう、そっと身体を起こして
冷たい空気に、震える
毛布の上に広げた袢纏を引き寄せて
熱い身体から熱が逃げないように
忙しなく羽織り ....
昼も夜も、夜も昼も、サバンナで走り回ったのははるか昔だ。
誰よりも早く駆け、獰猛で、向かって何でもかんでも噛み付いた。
誰も逆らわず、有頂天で、自分勝手だった。
歳月が経ち、一本、また一本と ....
三日前、一度だけ会った新聞記者が
病で世を去った
一年前、後輩の記者も
突然倒れて世を去っていた
彼の妻とは友達で
今朝、上野の珈琲店にいた僕は
スマートフォンでメッセージを、送信した
....
雑木林の奥の崖まで行く癖がある
そんな時に偶然見つけたのがこの教会だった
天井近くには鳥の巣まであるほど廃れていて
キリストは取り外されたのか
薄汚れた大きな十字架があるだけだった
軋む ....
あなたは一体
何処から来たのでしょう?
あなたは、あの日
たった一粒の種でした
一粒の種の中には
「他の誰でもないあなた」という設計図が
小さく折り畳まれ
ぎゅっ ....
万国旗は青い風にはたはた…揺れ
園児等が駆け回り、賑わう
秋の運動会。
染色体が人より一本多く
まだ歩かない周と、並んで坐る
パパの胸中を{ルビ過=よ}ぎる、問い。
――僕等はあわ ....
限界集落と呼ばれて久しいこの村
ランドセルの子供がひとり
学校への長い道を下っていく
蝉しぐれの中
下を向き一生懸命歩いていく
そういえば
この村の近くに高原の小さな駅があるが
その ....
プチトマトの実がついたと
子供のようにはしゃぐ君の瞳は
まだ昨夜の喧嘩のことを
忘れていないよと言っている
後ろからのぞき込む
バツの悪い僕の視線は
幼いトマトと君の横顔の間を
....
「お母さん、コンデンスト・ミルクっておいしいね!
明日もまたこれ作ってね!」
娘達が練乳をお湯で溶いた飲み物を啜りながら言う
「いいよ。
お母さんも子供の頃 これが大好きだったんだ ....
ある画家の内面を映し出した
目の前のキャンバスには
ふたりの男が描かれ
荷車を曳く者と
荷車に乗る者と
ふたり共、哀しく頬がこけている
その画家は
「生」という題を ....
駅前のデパートが閉まると聞き
短い帰省の間、立ち寄った
商品のない売り場と
間もなく解雇される店員たちの笑顔が
とても痛々しかった
逃げるようにエレベーターのボタンを押したとき
七歳の ....
三年は居ると思ったのに一年で帰ってきて
高校を卒業して都会で寮生活をしながら働いて
帰りたくて故郷に帰ったけど 親は怒った
だからお前には無理だから行くなと言ったのに
どこまでも行くと ....
忘れられた小さな空がある。
初夏の風を受けて
駅に続くなだらかな坂道を
歩く途中にある
金網のフェンス越しに
名も知らない花の群生
赤紫の小さな花を
背の高い茎にたくさんつけなが ....
不安な気持ちでたまらない、と
夜、入院している父から電話があったので
病院まで行く
今日はリハビリ頑張りすぎて疲れちゃったんだね
そう言って落ち着くまで父の頭を撫でる
その帰 ....
落ちた数を数えるよりも
水滴の生まれた場所が知りたかった
ささやき声も空気を振動させるような
ぎりぎり均衡を保っているこの小さな空間で
破裂する寸前の風船みたいな緊張感の中
今、きみが生 ....
春になったばかりの頃
白い帽子を追いかけて
春風の中を駆けて行った
草原の若い草からは
真新しい緑の匂い
南の方からは
温かい日差しがさして来る
空が青くて
眩しくて見れない
....
くたびれた足を引きずって
いつもの夜道を帰ってきたら
祖母の部屋の窓はまっ暗で
もう明かりの灯らぬことに
今更ながら気がついた
玄関のドアを開いて
階段を上がり入った部屋の ....
近所の用水路で小さな魚を捕まえた
家にあった水槽に放し
部屋の日当たりの一番良いところに置いた
魚は黒く細っこくて
その頃のわたしは
なんとなくまだ幼かった
+
....
どうやら僕は
今迄の思い出を
大事にしすぎたようだ
部屋の中は
まだ終えてない宿題みたいな
山積みの本
ポケットの中は
札は無くともささやかな記念日の ....
「免許を取るには、年齢位の金がかかる」
誰かさんが言ってた通り
33歳にして33万という金を
母ちゃんは惜しげもなく貸してくれた
二俣川で筆記試験に受かり
初めて免許を手に ....
いつの間にか
喧嘩になった
瞼の奥の埃が積もって
想いが行き過ぎてしまったのか
あどけなく
そして
空ろに
互いの気持ちを
飛ばしたね。
だから
言葉が刃 ....
朝埼京線の中で
学生の頃好きだった人を見かけたよ
もう十年になるんだね
なんだかやっぱり素敵だね
青臭かった僕の見る目でも
間違ってなかったね
化粧が薄くて色が白くて
どこか悲しそう ....
わたしはいつも、つつまれている。
目の前に広がる空を
覆い尽くすほどの
風に揺られる{ルビ椛=もみじ}のような
数え切れない、{ルビ掌=てのひら}に。
その手の一つは、親であり ....
ぼくが冷たい雨に濡れて走っていたとき
きみはあいつと酒を飲んでいた
ぼくが金策にかけずり回って
もう電話する相手もなくなって
ガス欠寸前の車内で携帯電話と格闘していたとき
きみはやっぱりあい ....
わたしたちはいつかきっと死ねるのだから
ジム・モリソンもシド・バレットも
ヴォネガットだって死ねたのだから
今は死ねなくても
こころさわやかに朝の唄をさえずろう
ゆっくりと自分を殺してゆくた ....
昨今は上手に生きてます
花の咲かし方も覚えたし
友達もたくさんできました
君の傍にいる時間も増えました
気になることといえば
ずっと瞼裏に黄昏が広がってることなんですが
その下に見知ら ....
嫁の腹が日に日に膨らんでゆく。
検診に行くたびに倍の生命力で大きくなってゆく。
嫁は四六時中続く気持ち悪さを懸命に我慢している。
風邪を引いてもなるべく薬を飲みたくないという。
嫌いなニンジン ....
何人目かのオンナが踊っていた
純粋だった景色も
捨てられた新聞紙のように
風に吹かれ、転げてゆく夜の雑踏
街は痛みも
嘲笑で、もて遊ぶ
ナマあたたかい酒を知り、
....
毎日ともに働く人が
あれやって
これやって
と
目の前に仕事をばらまくので
わらったふりで
腰を{ルビ屈=かが}めて
せっせ せっせ と
ひろってく
そのう ....
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