限界集落
西天 龍

限界集落と呼ばれて久しいこの村
ランドセルの子供がひとり
学校への長い道を下っていく
蝉しぐれの中
下を向き一生懸命歩いていく

そういえば
この村の近くに高原の小さな駅があるが
その回りがある日忽然と
映画のセットのような街になった

都会からものすごい数の人が押し寄せ
キキョウやキスゲを踏み荒らし
あちこちのテレビに映し出されたが
あっという間に飽きられて
今は廃墟になっている

夏空に見上げる入道雲や秋の実り
いっしょに走り回った友達の笑い声
暮らしの中でいのちにとって本当に大切なもの
その価値をもう少し都会と田舎で分かち合えないものか
心からそう思う

そうすれば
あの子は心細げにたった一人で通学することもなく
都会のひと達は
隠された村々を一々暴き立てる必要もない

いずれ消え去ると言われる村の辻に立ち
蝉しぐれの中
かすかな希望の光を背負ったような
あの子の後姿をいつまでも見送っている


自由詩 限界集落 Copyright 西天 龍 2014-08-09 11:09:48
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