パイロットサングラスを頭にのせた、
巫女たちが夢に見る黙示録―
蜘蛛の巣一つない大広間。シャンデリアの上、
タキシード姿でシルクの手袋を咥えた燕が
フィアンセの現れる柱時計の 時が打たれる ....
たくさんの人が眠っている
重力に抗うこともできずに
背から腹までのわずかな高さの
影をつくって
僕らの毎日は孤独な戦いだ
星の中心へ向かおうとする力との
今日もまた爆音が響き
崩れていく ....
感動的だ
ナイロビのスラムの何百万人のなかから
一人の少年を選んで
持って回った親和力(テレビカメラ)で気安くなり
何日間もその不幸を見続けたあげく
「君は今幸せかい?」 ....
ボール紙の小さな箱が濡れしおれている
白地に赤い矩形を散らした面は泥じみている
その上で蟻の細い行列が幾筋も
行きつ戻りつし交錯しあっている
つややかに黒い頭蓋のうちの
....
やまびとの散文詩―断片4
緑色の太陽が沈まない夜が、軋み、傾き、唸りを上げて
動揺する、わたしたちの長い旅は続いた。
黄金を隠し持つ禿鷲が棲む不毛の大地は、ときに、わざわざと
道を次々と造 ....
退屈なのは自分のせい――と、かつて僕らは
それを殴っていた。うとうと眠りかけた時間を
時計のなかで凍っていく時間を、叩き起こすように。
おかげで今じゃ、僕らの時計はパンチドランク。
秒針は、 ....
実際の所あれは
鴉のようにも見えたし
人間のようにも見えた
真冬の朝の
まだ明けきらぬうちに
紫色の空を
私たちは見上げていた
凝固につぐ凝固
雪よりも白く美しい
骨を包んで ....
今日コンビニのおつりでもらった
平成17年産まれの100円玉は
驚くほど輝いていた
昨日道端で拾った
昭和産まれの100円玉は
それが世の常だというように
薄汚れていて
....
乾いた見世物小屋で
手にじっとりと重さを感じる
白い蛇が巻きついたこの拳
スポットライトに魅せられた
シマウマがいるそのゴムの上で
上 でこ の瞬間 だ
ファースト!あいつの右 ....
追われてゆく、陽の速度に倣って、大気は燃えている。すべての失われた魂を鎮める夏。その高温へと連れて行かれる。靴の紐がほどけている間に、素早く足裏をさらけ出し、女の後ろ髪がほどかれる間に、どうにかいまを ....
女が化粧している
裸の背中を私に晒して
射抜くような眼で
鏡に映し出した己を見る
内にある存在へ
女の手は問いながら作用する
ただの身だしなみでも
誰かに見せるためでもなく
太 ....
高温のベランダ。光が照らす形。光に溶けていく体。ここから先へはいけない。夜が待っている。
蛙は水田で鳴く。鳥は空で鳴く。人は蛙と鳥のあいだで鳴く。ここから先へはいけない。朝が待っている。
芸術 ....
昼が過ぎる。真夏日が待機した窓を開いた。
半裸な都会の露出度は、夕方に足を突っ込んでいる。
ベランダから返り討ちをしてやろうと、長袖に手をかけてやめた。
―ソファーの色、体毛よりも淡い、素肌 ....
仄暗い公園のベンチで
みかんの皮を食べろと言われている老人が
喜んでと言って頬張っていたのは新聞紙
これでいいですかとにこにこしながら
鳩の目で少年たちを睨みつける
ぽおっぽっぽっぽ ぽ ....
冬には空が降下する
みんな誰も見てないし
奪えるものがあるなら
私から奪って構わない
(雪霧の向こうに浮かぶ
あれは管制塔の光源だ
低い轟音を響かせて
離陸す ....
揺れている。揺れている船の上、喉が渇くので、ペットボトルの口を開ける。ミネラルウォーターを飲む。
(ひたすら漂いたい気分だ)
わたしは退院後、船で島に向かっていた。誰もいないところに行ってみ ....
あなたの子供は駈けていきました
あなたの急を知らせに
道の向こうの
そのまた向こうまで
私が知らない間に
他の多くの大人たちが
それぞれの世界の片隅で
何も変えられないでいる間に
あな ....
聖地の方角へ向けて祈る
巡礼者のような面持ちで
私は此処に立っていた
星たちの第五待合室
そこにある伝言板に
私が一行書き加えると
誰かが四行詩で返信する
....
トラックが音像を抜けていく
窓の外の道路はもう薄く白色で
ゴゴと過ぎていくやわらかな午後に
雨のあとに、やってきて
「やさしいよ、やさしいよ」と
トタン屋根の膝枕で眠る
記憶が脱ぎ捨て ....
冬は好きではない。失業してから外出が減った。TVを見るか寝ているかだけで、二ヶ月が過ぎた。TVでマーメイド海岸のCMを何度も見る。海面から顔を出し泳ぐマーメイドの姿。面接や職安にも出かけるが、就職先 ....
わたしは投げ出す
わたしは拾う
手は銀になってゆく
つばさ失く飛ぶ火が越えてゆく海
ただ音だけで造られた海のむこう
骨と魔術師との対話
夜に生まれ
朝に消え ....
いま全てを弔うために
一つの歌が降りてくる
それは風にのって柔らかく
全ては安心して死んで良い
そして私は一粒の悲しみを
小さな微笑と淡い幸せとを
火にかけて燃やすだろう
遺され ....
「オロチョン」
アイヌ語である。「火、勇壮果敢、激しい」そんなニュアンスが含まれる。
そして、一民族の呼び名である。
日本は単一民族の国である、と言い切った馬鹿がまた出てきた。鈴木某。
僕の ....
夜の海が私を欲しがっている
或いは一つになれるだろうかと
踏み出した足に私は困惑する
そのとき私は生きている
そしていつも自らの中に
私は小さな一つの海を持っている
寄せては返すこ ....
眠くて仕方が無いと母は言う
こんなに眠くて仕方が無いのは
悪いことが起きるから
それとも脳梗塞なのかしらん
雑煮の鍋を温めながら
迷信深い島の年寄りの顔になる
庭には
他の樹木とは、 ....
私の前に渇いた冬が横たわり
私は枯れた花に叱られていた
道には鳥が落とした羽根があり
私はそれを拾って空へ投げる
冬空は何か物悲しいと言い
私は何が物悲しいかと訊く
ただ確信をもっ ....
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