春の坂道
山部 佳

沈黙の扉を閉じて
飛翔を願う鳥を幽閉したまま
坂道を登ってきた
目の前の足元だけ見つめて

振り返れば
私の後ろに従うはずの
長いようで短かった上り坂は
春霧に沈んで消えていた

潤色してきた仮面の気配が
微かに青く

茫洋と霞んだ下り坂
彼方に水面の鈍い光
その池の畔には
花が咲いているだろう

幼子を連れた若い夫婦は
花の下に ひととき憩う
童女は小さな丸い指で
花びらを集める

花びらに埋もれた
白々と尖る翼の骨 
長い時間の結晶体を
摘み上げた童女は首を傾げる

そんな仕草で私の亡骸を
拾い上げてくれるのなら
足裏に地面を記憶しながら
ゆっくりと下っていこう ゆっくりと

黄昏の吐息にはらはらと
しめやかに花びらは離れ
去る季節の寂寥が
淀んだ水面に広がる


自由詩 春の坂道 Copyright 山部 佳 2014-03-12 20:29:56
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