あら、困ったわ
が口癖の君が困った様子なんて
今まで見たことがない
あら、困ったわ
なんて言いながらも
トントントンッとまな板の上で大根を切ったり
ザッピングをし続けた挙句の果ては ....
猫は中空を見つめていることがある。
なにもない空間。
なにもないはずの。
猫の視線がどこか一点に凝固して
黒目が大きくなると
わたしはすこしわくわくする。
猫の視点が
わたしの背 ....
またはドキュメント晩酌時の佐々家。
夜のテレビの紀行番組で、
アンダルシアの風景が写る。
「アンダルシアって、アではじまってアで終わるね」
と夫。
「そうだねえ」
とわたし。
....
またはドキュメント夕食時の佐々家。
夕暮れのテレビ・ニュースで
菜の花畑が写る。
「いちめんのなのはな」
とわたし。
「純銀モザイク?」
と夫。
さて。
いつものように。
バ ....
確信犯という言葉の意味が、気になって気になってしかたないので、辞書をひいてみた。
確信-犯【かくしん-はん】
自己の信念に基づき正当な行為と信じて行う犯罪。
[特に、宗教的・政治的な義務感・ ....
海岸沿いに露出した三十年まえのゴミ山のうえ
新しい嘆きがそっくりひとつ捨ててあった
壊れた自転車
割れたブラウン管
骨の折れた傘
骨折り損のくたびれ儲け
破れた心臓
そんなもののうえに
....
婆さんは忙しいのである。
なにしろ忙しいのである。
化粧するヒマはない。
みなりととのえるヒマもない。
そんなわけで
髪はおどろに振り乱し
服はボロボロ顔は血みどろ。
時には走る車の ....
寒くはないのに足先が冷たい
詩人の休日について思い馳せているせいだ
トランペット吹きの休日なら
明るく自由な旋律だけど
詩人の休日はなぜか
未熟なくせに古くさい響きがして
私の足先をとても ....
窓をあける
蠍座がみえる
もうそんな季節なのだ
夜明けまえ小さな田舎の駅にも明かりは点り
どこかからきてどこかにゆく青い電車が
轟音を引きずってゆく
さよならを言うまでもなかった別れ
....
コーヒーには砂糖をいれない、
いま私はめちゃくちゃに機嫌がわるい、
人間なので機嫌が悪い日くらいあって当然なのだけれども、
こんなに機嫌が悪くなるとかえって気分がいい、
コーヒーにはミルクもク ....
貝殻の内側に仕舞われたような日々
僕らがいるのはそんな場所で
耳にあてるとざーざーと音がする
うっすらと開いた隙間からは
青い空と白い雲
明日っていうのはきっとあの白い塊で
かたちがあ ....
試験管に緑の液体 三角フラスコに赤の液体
というのが流行でないのは知ってるくせに
やっぱり実験台の上には緑と赤の液体
灰色のふわふわがはびこるシャーレや
知性ある紫の蛸が蠢く水槽や
....
春は死にかけている
ぼそっとつぶやいて探偵は
ブラインドの隙間から夕陽を見た
まともにブラインドを開けて見りゃーいいのにと
読者は思うかもしれないが
これはこの探偵の美学であり習慣である ....
時間が
外から来る光を
横になりながら見つめている
花は雪
雪は花
晴れた日
道は海へつづく
ずっと空のままでいる川
とどろきの向かうほうへ
雪は昇り
落 ....
夜中に台所で誰かに話しかけたかったら
話しかけたらいい
誰もいなかったなら蛇口にでも話しかけたらいい
君は自由だ本質的に
誰の手にも負えないくらいに
卑猥なことを叫びたかったら
夜空に ....
アゲハは真上に飛び立つ。
目的があるみたいに
だけど少しも慌てず鷹揚に
まっすぐに。
あかるい春の日
かわいた地面に
ゆらゆらと落ちている
アゲハの影。
高く舞い上がれば
薄 ....
たぶんヘンリー・カットナー(またはルイス・バジェット名義)が書いた古いSF短編だと思うのだけど、作者とタイトルは定かでない。むかーしのSFマガジンで読んだのだ。
その小説世界では、魔法がごく普通 ....
大陸棚の向こうで誰かが手招きしている
見慣れない服を着て、砂っぽく笑っている
傍らには、けだものがいて、何か囁いている
規則正しい波の音が
回転する灯と溶け合っていく
灯が波 ....
「1r」
いくらがんばっても
lu, lu, lu, lu, lu
そのくちもとへ
「2r」
わたしには
ぉろしあ人の血が混ざってるのよ
と言って出 ....
わたし
春の畑をあるく
やわらかな雨に匂いたつ
赤土
影の淡い腕が
いくほんも突きだして
足首をつかむ
でも
死んだ者のちからはよわい
幽明のあわいに建つあの門が
ぎらりん ....
隙あらば寂しいと言おうとするこの口を
誰か縫いつけて下さい
私が言うことで傷つく人がいるだけで
何も生み出さない
この言葉を
誰か縫い付けて下さい
一人眠る冷たい布団
ど ....
今日、ボクは友達の墓参りに行った。
3年前の1月20日から、何度と無く足を運んできた。
しかし、今まで、ただの一度も、その墓の前で手を合わせたことは無かった。
手を合わせてしまえば、その子の死を ....
金髪の中年
若い未亡人
ぎこちない青年
3人はうどんの出る喫茶店で
食事を共にしていた
丸テーブルの真ん中に
輪菓子(ドーナツ)が置かれていた
スポンジの空洞の上で
3人は ....
三月九日午後四時時四十五分
僕は友達に会う約束を破られたので
しょうがなく家まで帰っていたら
前方の空 遠く彼方でカラスが堕ちていった
南無。
思ったのは それく ....
草の原には緑の花が
常に誰かに呼びかけるように
異なる緑にまたたいている
山へ山へむかう道
途切れ途切れつづく道
雨の滴と羽虫がつくる
無音にひろがる水紋の夜
荒れ ....
いつかわたしは
わたしから名を与えられた
わたしではないわたしが
鳥のように道に立っていた
地にも 空にも
翼は落ちていた
遠い光の日に
熊は殪された
血は流れ
人の内に ....
あなたの背中に吹いた風が
ここまで届くようにと窓を開ける
どこからか
たどたどしいリコーダーの音が聞こえる
この星はとても小さい
俺は子供の頃
星をつかめると思った
手を伸ばして掴もうとした
それから
俺の心には星があった
わくわくするような
にこにこするような
星だった
その星も ....
街でついつい男の人を
宝石に
変換する
裾に 白衣ののぞくメガネは
傷のついたオパール石
チャイナ帽 歩きタバコの初老は
家のないラピスラズリ
梯子に登りたそうな ボーダー2 ....
悲しみの色を塗り合わせ
暗く淡いシミを作る
溺れる二人を救えるものは
微かに震えるガラスの夜だけ
愛しさの色を塗り合わせ
深く甘いシミを作る
切なく互いを求める夜に
{ルビ理由=わけ ....
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