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夜
荒れ果てた病院の屋上に登り
からっぽの街を見下ろす
一本の蝋燭すら点らぬがらんとした暗闇が広がる
この街は死につつある
病院の各階の二百二十あるベッドは全て閉ざされ
腎臓透析室も実験室 ....
口笛が遠くまで聞こえるのは
まわりに誰もいなかったからだ
分かっていたんだろう
少女よ
どこにも行かなくていい
君が知ってる誰もかもは
どうせ君の知らない場所で笑っている
....
桟橋を子供が
ぞろぞろ歩き
海にどんどん
落ちて行く
それは困るので
番をする事にした
子供の向きを次々と
くるくる変えて戻す
飯も食わずに番をしたので
僕は死んだ
....
印を結ぶまでもなく
彼のものを召喚するまでもなく
すでに定められていたらしかった
パルプの汚泥で黒ずむ東海の海辺に生まれ落ちたとき
太陽と水星はともに宝瓶宮にあった
あるいは優しい人びと ....
蒼いトゥインゴがエンジンを止めた
雨がしとしとと降っていて
少しだけ埃の匂いがする
人通りはあまりなく
時々カラフルな傘が
フランス生まれのトゥインゴを隠した
....
この指に「とまれ」と名前をつけたら
隣り合っているほかの指には、やはり
「とまら」「とまり」「とまる」「とまろ」
と、五段活用させて名づけるべきなのか
あるいは
「すすめ」「まがれ」「う ....
鹿と衝突すると車が大破するぐらい
私は元気です
だから
貴方が
光への道を迷っているのならば
私が
身を持って進んで伝えに戻ります
宗教のようだと
貴方は
吹き出して ....
長男 22歳
卒業研究題目「二次元突起列を有する平行平板間の流動性」序論 実験方法 結果 エネルギー 有効利用 機器 小型化高効率 熱交換機 伝熱特性向上 工学上重要 問題 壁面 伝熱促進方 ....
1.
洞窟は亜硫酸ガスに満ちている。
酸素濃度計は警告の悲鳴をあげ続け、
俺のマスクは目詰まりしている。
俺が生きているのはどうやら奇跡的なこと。
俺を拒み人間を拒む洞窟世界で、
....
雨の下にずぶ濡れていた
左手にワイン
右手にパン
行き場なく
真夜中のスーパーの駐車場
雨を吸い込んだ衣服が鎧のように私を固定する
じゃりじゃりした下着の中では
排泄物が雨と親密にな ....
地下深くもぐり
モールス信号を
生涯送り続けた男が
死んだ
その晩
世界中の
ラジオから一斉に
鐘の音のモールス信号が
響いた
しんでしまうとか
めざめたくないとか
あいたくないとか
たべたくないとか
ゆめをみたくないとか
はたらきたいとか
樹になりたいのだとか
あの灯の中に行きたいのだとか
右手に花を ....
確定されないと
思った
誰とも話をしなくなって
一週間が過ぎ
学校に行くのをやめ
電話も捨ててしまった
人とすれ違い
社会と関わることなく
存在が陽子よりも
小さくなり
消えて ....
1 自然環境におけるチャンスは人間の想像以上に確率の低いもので
まず心よりも先に愛しいと感じる全ての器官
{引用=参考資料1「2つの景色」より
マウントするのは
野生における♂が
....
絵描きの描く肖像画は
どれも本物と見間違うほどの
素晴らしい出来映えだったが
どの絵からも
顔の構成品がひとつだけ欠けていた
片目の瞳だったり
上唇だったり
耳たぶだったり
必ずどこか ....
夏の濁ったにおいに爪先立ち
砕け散った星々の欠片のような
宿命論として小さきものの
俺がいて
夕刻のオランダ坂には
永遠に落下することのない
光の粒子の螺子があって
それは緩やかに巻き戻 ....
君の名はパトリ 白い肌の優しいパトリ
君の名はリーリ 眩しい笑顔の太陽リーリ
君の名はディアロ 生傷の絶えない頑固者ディアロ
世界の色は朝ごとに夜の元素が
太陽の熱で変質した ....
おやすみなさいとゆめをみない
おはようとめがさめない
こんにちはとてをふれない
さよならとふりむけない
しらないうちにわたしは
がらがらごえのばばになり
ひとりきりでさくらのしたに
ねむ ....
いまはただ
雨が降り
石にしみるまま
あけないおくで翳のかたちを追っている
ひがしの空だけが
ゆるやかに
くちびるをひらき
すきまから虹彩をのぞむ
わたしは
まるい眠りを
かきわけ ....
滑車の前で 光を背に
腕をひろげて 動けずに
崩れ重なる門の残骸
霧を貫く鉄の橋から
したたる滴を聴きつづけていた
霊はいて
雪の地に立ち
応えを受ける
....
1 バス待ち
陽だまりの停留所に
車椅子の老人
声かけようか
たとえば
今日もお陽さん輝いていますね
でもすぐそこには冬将軍で
そのブランケットは暖かそうですね
サング ....
神様への恨みその他
いろいろあって
昆虫に生まれ変わる夢をみた
キャベツの葉の巻き込みの下で
今とてもしあわせ
緑色の天蓋はともすれば
お祖母さんの匂いがする
そうだ ....
こびとは手紙の最後に
「こびとより」とそえたあと
「こ」と「び」のあいだに
小さく「い」の字を書きくわえた
しばらくながめているうちに
恥ずかしくなったのだろうか
てのひらで手紙を丸め ....
それははちみつのいろ
きんいろにかがやくアスファルト
カーブの手前
かげのように
染みがきえない
きえないでいる
からすの世界はあかむらさきで
いいものだけ光ってる
たとえ ....
恥を知れ無宗教の雑民どもよ
誇りは高く晴天の霹靂を呼び覚ませ
高く見上げた塔の下
無名教会は聖なる言葉に今飢えている
....
何日歩いたか分からなかったが
見渡す限りはサバンナで
振り返るとビル郡が
しかし小山ほどの連なりで見えたが
向かっているほうは真っ白に地平だった
喋るのが億劫だったからっ ....
抱えているものは
深く
そこはかとなく
花が揺れている
静かな水の底の
急な流れのように
黒曜石は削られ
砂になる
空の底の風に
小さく笑う幼子のように
声無き声を紡ぎて遊 ....
魚の群れが夜を飛び
鱗と涙を落としては
何も無い地を焼いていた
火の端々が鳥になり
さらに暗い夜へと去った
雲と砂の波のなかで
魚は涙を閉じていった
白と ....
何処か知らない 浜辺
の砂の上に座りこんで ぼんやり
海を眺めていたようで
すぐそこの岩屋の蔭
から蟹が一匹
ちろっと動いた ように感じて
眼を凝らそうとしている
つもりが逃げ ....
追い込まれた時に
真価がわかるなら
真価なぞ判らなくて
良いような気がする
もしもとか
万が一とか
無いほうが良いのに
現実には
何が起こるか
わからない
不幸を望まず
....
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