わかったことの一つは、わからない、ということだ。
そんな気持ちはわからない。
わからないままにしておいてはいけないと、ずいぶん悩んだものだが
今は開き直っている。
わからないまま、そんな考えもあってい ....
私しか「アトリエ」と呼ばない場所で
あのひとは輪郭のまま西を向いている
むせ返るような夕陽の匂いのなか
パレットで乾いた水彩は、それきり


藍が好きだったと思う
雨が好きだった ....
ほどなく
空は なだめるように
いくどかのまばたきをした
何度目かの夏
もうすぐ花柄の猫たちが
砂丘のほしに
帰ってゆく

波の音
水平にひろがる
君のこきゅうと 両腕
ほど ....
薄桃色の花は手のひら
包んだ途端灰に変わって
冷たい風に
さらわれてゆきました
どこか見知らぬ街の
誰かの頬をざらりとかすめて
ほんの小さな
でも確実の
いたみを芽生えさせました

 ....
たとえばね、このレンズ越しに見える世界が愛に溢れているものだとして、
世界の境界線が濃くなっていくから
この空の青だとか
花の薄紅だとか
草木のざわざわりとした、
鈍い銀がった緑とか
 ....
春の気配に恋、を思えば
こころが羽根を持って
菜の花畑の上を旋回する


拙い愛情が
地球上のすべてだったあの頃に思いを馳せると
おぼろに陽炎は立って
咲き競う花の匂いが
わたしを空 ....
私は
花びらが一枚足りないの
みんなは五枚なんだ
でもね


  一 

ずっと前、
私は小さな種でした
ほんとに小さくて、軽くて、やわらかかった
あの土と、この風が私を育て ....
一.

 俺の知らない赤で
 雲が光の中で
 死んでゆくんだ
 今も

 おまえの知らない青で
 波が砂の上で
 壊れてゆくよ
 ほら

 見ろよ
 カモメの親子が今
 俺 ....
{引用=一、くじらヶ丘


 口に出してごらん
 うるおい、と
 その
 やわらかな響きは
 途方もなくひろい海の
 すみからすみまで
 満ち満ちてゆくようなものではない

 干 ....
南にむかって
角をひとつ 曲る
てのひらに 
陽の照るように
ゆっくり

あなたのほほからたちのぼる
あたたかなあめの 午後は
甘くて
空をむかえる地べたのように
五つのゆびを ....
加瀬さんの実家にイチゴ狩りに行った
シーズンが過ぎると職場の同僚とその家族を呼び
完熟して出荷できなくなったイチゴを取らせてくれるのだ
妻も娘も毎年その行事を楽しみにしている
昨年も一 ....
あなたが
雲雀の落し物を書き記しているとき

あなたが
コーヒーの甘さに悪態をついているとき

わたしは遠ざかる
遠ざかってゆく


あなたが
もつれた糸を我慢強く解きほぐすとき ....
目覚めると
わたしはちいさなこどもだった
ゆめが まくらからながれだしていて
手のひらで隠すと
輝きを益した


水曜日が 机の上でそっと息をしている
かわききった波が
部屋のなかを ....
話しつかれて
午前二時


もしこの電話をきれば
世界も
終わってしまう
そんな気がして
ふたりは

どこからか
ぶあつい
電話帳をもってきて
ただ電話番号を
読み合うんだ ....
学生のころから
よく行くとんかつ屋さんがあって
久しぶりに行ってみたら
お昼時を少し過ぎていたのに
待合の椅子もいっぱいに
さらに立って並ばなければいけないほどだった
良心的な値段と
カ ....
足は
深い草の中だった
踏んでいるつもりで踏む足音は
深く柔らかな草の中からだった


うらぶれたいだなんて、高架下
うらぶれたいだなんて、アスファルト
いつからか ....
{引用=からだ
すこし熱くして
あなたは
立っていました}







だらしのない
ゆびさきがふれた
ちいさなしぐさで あふれてゆく浴場
朝が来て
また
あさのくる ....
金木犀の小花が
打ち明ける秘密を
直ちに忘れてしまってこそ空は
どこまでもひとつの
どこまでも青く澄み切った隙間です


衣服を自らほどいたわたしたち ....
(ここでは宇宙をスプと言います)
最前列右の左のスプを見た見たもの全て衛星で死亡



(ここでは宇宙をンと言います)
ンの声がロケット破壊しつくしてβ・γ線上の{ルビAir=アリア}
 ....
折れ曲がったあなたの身体を
まっすぐにするのが
私の仕事

あなたは

あなたの意志を持たない
あなたの影になってしまった

その瞬間
私たちは知ることになる
私たちが
実体と ....
空があんまりひくいので
きりんのくびは
つい空から突き出してしまった

そして見たくないものを
見てしまった

あああんなにうつくしいものを見てしまったら
もうぼくは
なにをみてもう ....
幼い頃のひとり遊びの記憶は
影となって私に纏わり
誰かを愛そうとするたびに
耳元で呪文を投げかける

楓の色づく様を
薄の頭をゆらす様を
人と分かち合うやすらぎを ....
ミカンが泣いています。

かごに山ほどいた仲間が一つずつ

確実になくなって

心中すら約束した最後の仲間も

突然、消えてしまいました。

失ってから分かることは

あまりに ....
あなたはよく熱を出して
自分できづかないでいるので
いつも僕は
こっそりとあなたのひたいをひやす
あなたがきづかないままで
また 
まっしろな
あのベランダに 立てるように


 ....
がんばったら見上げた空10センチだけでも
雲の切れ目から青の覗く
そんな世界を私は希望する

その青が
回りまわって
どこかで引っ込み思案に咲こうとしている
白い花の背中を押 ....
そっとかわいてゆくならば
あと すこしだけ




(でんわのおとで目をさまして)
(それからゆっくりと足の裏をつめたい床へ)
(ひた ひたと)

おきてがみの温度は なまぬるく
 ....
日焼けするほどの
残せる夏のしるしもなくて
白いからだが
裸のままでいるようで
ときどき恥ずかしい

私の血は水のように薄くなって
夏はたくさん虫を殺してしまう
土から生まれて ....
かくすためだけの
キャミソールに飽きて
このごろは いつも
はだかで過ごしている


夏はまだ
わたしの腰の高さで停滞している


午後4時をすぎると
夕凪に 夏がとけてゆく
 ....
せっかく外に出たのだから
妻と娘に土産を買って帰りたかった
二人が泣いて喜ぶようなものではなく
小さな包みのもので構わない
ほんの少し甘いお菓子で
お土産買ってきたよ
あら、ありがとう ....
私の中に
午前を飼っている
白い舟がいくつか
遠く漂う午前だ
華奢な草の葉がためらいがちに揺れ
吹く風のなかに
覚束なげな青さが
消えない午前だ

もう長いこと飼っている
だからも ....
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