僕の部屋には季節が無い
うずくまって見詰める本棚には
うっすら埃が積もっている
TVのコンセントは抜いたままだ
頭痛が少し
腹痛も少し
瞼が厚ぼったく重たい
もう長いことゆっくり眠れ ....
花瓶の近くに置かれた姉の唇が燃えてゐる。
うす紫色の炎が小さく上がつてゐて、読んでゐる文庫本に今にも火が移りさうだ。
目を細めて見ると、表紙に「菜穂子」と書かれてゐた。
....
現と擦れて詩が浮かび
境と接して死が浮かぶ
現も境ももう近しく
それなら詩と死と
しとしと濡れて
行ける処まで生きませう
現と境の溶けるまで
背負った重荷の露となるまで
背を正すこと、 ....
牛になって
風にふかれながら
草原を食べていたい
できれば
あなたとふたりきりがいい
詩が書けるヤツはドンドンアップすればいい。
ネット以前だったら新聞・雑誌に投稿しても、
選考するヤツの目にとまらなければ早々と水子にされる。
出版業者に頼んでみても「字が書けない脳性マヒの少 ....
書くべき物語はもうないのだった
すっかり何もかも失ってしまって
ただ生きて在ること、それだけが
残され 、〃うっとり〃桜を見上げ
もう何一つ
始まりゃしないのに
両手広げる、大きく大きく
....
とじた目蓋の裏に海がさざめいていて
丸めた背中の上を野生の馬たちが疾る
寝息を受けて帆船が遠くへ遠くへ
あなたの存在そのものが夢のよう
そんなふうに思えたことがあった
ひとりでない、 ....
低気圧が近付いてゐる午後。
少年が鉛筆を削つてゐる。
室内に、新しい芯の匂ひが満ちる。
「隆、下りてらつしやい」
と、羊羹を切り終へた母の声が階下から聞こ ....
静かに静かに暮れる時に
涼風秘やかに空気を揺らし
懐かし憧れの未知からの訪れ
還流しながら予感に巡る
余りに忙しい社会の営み
余りに貪欲な資本の増殖
逃れ逸脱、寡黙に落ちれば
戻って ....
久々に訪れた病院の園庭は、
十数本の桜の木が
無数の赤い蕾を膨らませていた。
その生命力は、
春の大気に漲り震え
園庭という枠を獰猛に
突き破っていく不穏さを含んでいた。
膨ら ....
また一晩が明け
光溢れる一日が来たよ
風はそっと穏やかだし
空はぼうと水色だし
街は花の香に包まれて
実に飄々と軽やかに
ステップ踏んで春は行く
おれはのそっと鬱だけれど
五十九回 ....
傾いた太陽が
枝だけ残った木達を
公園から浮かび上がらせる
枝には時間が葉のように光にきらめき
螺旋状に生い茂っている
手前には娘がブランコに乗り
奥では息子がすべり台をすべり降りた時 ....
前へ進むと
広々とした空間の開け
(紅梅はもう散り果て)
涼やかな風吹き
光、光
駆けゆく春のこの午後に
私はやや傾いて
尚、前へ進む
もう何一つ考えることなく
やはりあなたであったのだ
金魚のように
ひらひらひらりと
わたしの世界を翻弄するのは
あの冬の、最後の空をもって
鍵穴を持たない錠を
解くことができるのは
或いは、時を超越し ....
騒乱騒乱、
光の洪水だ
爆発的な消尽、
圧倒的な光の洪水だ
浴びる、浴びる、浴びる
(白い巨鳥が空を行く)
ひたすらに進み
ひたすらに跪き
今、生きる
この渦巻く真昼の界
....
燦々と
陽は降り注いで芽は弾け
花は開いて誰か居ぬ
誰かいたか?誰がいた?
記憶にうっすら響く余韻
懐かしく憧れた
娘の顔が
逆光に浮かぶ
)きっとまた会えるから
)き ....
一雨毎に深まりゆく
この春日に佇んで
私は浅く息を継ぐ
虚脱の朝に不安な昼に
剥ぎ取られてしまった色を探し
記憶の奥の入学式
通り過ぎてく畑の野草
お母様と手を繋ぎ
降っていた降っ ....
物が増えていく
片づけをしなければ
部屋の空気が淀んでしまう
いつも掃除をしていれば
片づけようとすんなり思える
要らないもの捨てる勇気
思い切りのよさが必要
感謝しながら
....
今日の平板を飼い慣らし
明日への傾斜を生きる私は
もう何十年もの間口を開いたことがない
者であるかのようだ
赤く燃える早春の夜空
ゴオゴオと鳴る遠い街並み
いったい出口は常に入口だ ....
意地の悪いことを言ってみたりする
目的なんてないけれど
自分の本当のキモチを分かりもせず
とりあえず言ってみる
楽しくなんてない
まったくない
ほかになんと言ったらいいのか
言葉が見当た ....
春の陽に君の幻走り去る
雨降りに深まる春の匂い立つ
駆けてゆく春を追いかけランドセル
宙空に
吊るされ
巨大な空虚が
肉身を引き裂こうと
している
足場は奪われ崩れ
奈落の底を眼前にし
私はそれでも
前へ前へと
自らに言う
不安と恐怖に
貫かれながら
もう駄目な ....
集めたものより
与えたもので
わたしたちはできている、らしい
逆をいえば、
わたしたちは
足りないものをおぎなうため
ひとに何かを与える、
のかもしれない
ミ ....
{引用=*筆者より―― 旧稿を見返してゐて、本フォーラムに掲載してゐなかつた作品があることに気付いた。以前のアカウントを消して以降、復帰するまでの間にかいたものは随時掲載していた積りだつたがどういふわ ....
あの春から この春がやって来た
馨りはまだ手のひらの上
ふわっと小さな宇宙を乗せて
ここへ ここへとやって来た
呼び覚まし 瞬間にカチッとアルバムにはまる
大事な 大事な一期一会を刻んで ....
僕がサラリーマンだった頃
自称自由人らしき若者に侮蔑されて
僕が学生だった頃
就職組から学生なんて甘いよと言われて
結構傷ついて考えたあげく
僕は鳥になって
いつか誰も知らない ....
静けさ 揺れる
春の雨、
光の空から
降り注ぎ
宇宙を回遊する言ノ葉たち
凝集しては時を刻み
思考の流れをこの界へ
屈曲しながら艶やかに
在る物、在る物、造形する
静けさ 奥 ....
熱々のラーメンを頬張った後で
満腹だねと笑いながら腹をさする
さすれば本日の胃袋に詰め込む作業は
これで終了ですか、の鐘が鳴り
金を出す筈の財布から
麺より長いレシート出る
....
そのトラックの荷台の隅に乗せてくれないか
行けるところまで風を感じて町を出たいのだ
彼方の空は晴れているのにこの町は陰鬱に曇っている
陽気に歌って曇天をたたこうか、どんどん、どんどん
町は ....
そのひとの居場所は
薄くなりつづけていた
何故だかわからないけれど
薄くなりつづけていた
だからそのひとは自分のかたちを
次々と言葉へと変えていった
言葉ならどんな薄い場所でも
息づける ....
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