風が強いから洗濯物を追いかけて
綿毛が背中を撫でていく、さよなら
踏みぬいてしまいそうな青い草地を
蛙が春へと飛んでしまったから
ひとりきりで立ってます
スイカズラの甘い蜜を分けあっ ....
重いテーマじゃない詩は軽いと誰かが言う
震災、津波、原発、自殺、貧困、差別、
そういうものを扱わなければ詩じゃない
そういうものを書かなければ詩人じゃないと
重いテーマを重い言葉で綴った重い詩 ....
口だけじゃんと言われても、何度も、何度でも
1
祈りを忘れてしまう夜がいくつもあります
誰かが亡くなったことを耳にしない日はないというのに
ハンバーガーを食べながら
我が ....
ひとりぼっち、の人は
ひとりぼっちの景色を
知っていて
遠くを静かにみつめている
たまに夜半の丘に立っては
叫んだり泣いたりしている
眠れば星雲の渦にまかれて
わからない ば ....
遊べや遊べ わらしべ一本
わらしべ一本 遊べや遊べ
遊びをせむとや生まれけむ
誰もが一本のわらしべ握り
明日は長者か乞食ぼうずか
種もみの実りを待たずさり
中洲で噛みあう ....
ゆきの降らない冬の日々
吊られたあらいざらしの
Tシャツはふるえていた
それはゆきを待つわたしのように
次第に乾いていく暖かい日差しのなか
磔刑にされしろくしろく待ちわびている
誰 ....
ひとつの風景の動きが
瓶に詰められてゆるやかに
はっこう、していく
風景は酵母となり詩情とざわめき
月明かりが窓から注がれて神々の手が
攪拌を始めれば乳白色の神話の海になる
言葉に ....
いつものように歩いていたのに
いつものように犬と散歩していた夜に
いつもは足を止めもしない場所で
足が歩みを止めて犬が不思議そうに
足のまわりをくるくると回っている
線路下の細い道が ....
庭の木も街路樹もすっかり
葉が落ちさり手をひろげて
雪を待ちかねてざわざわと
さぁ、おいで、雪よ、おいで
歌いながら風を掬い夜を掬い
全身で冬の夜空を受け止めて
君は僕の手をひいて ....
冬に映える黒髪の獣の口から、あなたとの四季のため息が風に巻かれていくよ。あのシャボン玉がすべて包んで弾けたからぼくやきみの悲しみさんはもうないんだ。同じように喜びも弾けて消えるからまた悲しみさんはとな ....
課題詩『秋の霧』対応随筆
夜勤明けの朝には霧が深く立ち込めていることが、しばしばある。僕の住む地域は盆地であり、すり鉢の底に水が溜まるように霧も溜まり濃い霧の中に町は沈む。視界も悪くなるので、自 ....
頭部のない地蔵が地に突き刺さり私は石くれを拾い集めて供えていく。顔は覚えてくれているのか、と問われても元より知らない。けれども手を合わせることだけは遠い昔に習ったし、あの鳥のように歌を供物にしてあの花 ....
私のメールボックスに詩編をくださった方がいらっしゃいます。今年は災害の多い年でしたが、いつも通っておられる教会も被害をうけておしまいになった方から、一遍の詩が私のメールボックスにとどきました。
....
ぼくの庭の死者たちがつぶやいている
《今年は雨が少ない……不作かも》
祖父かそれとも伯父か、まだ顔がある
死者たちはざわめく葉影のささやき
裸足で庭を歩けば確かに土は乾いていて
限られた ....
鹿
という字に
お湯をかけるとあらわれる鹿に
みつめられながらカップヌードルをすすっている
いつまでこうしていられるだろう
これからの時代は
もっとたくさん間違ってしまうことも
ある ....
ちいさい秋みぃつけた、と
歌う、子らがいなくなって
久しい庭で百歳近い老木が
風にひどく咳をする
また長く延びる影を
煩わしく思った人が
老木を切り倒して
春には明るい庭で
....
課題詩・秋に再挑戦
『栗への讃歌』
青い雲丹のようであった
トゲトゲが今やえび茶色に
染まり機は熟したと落ち始めた
栗よ、お前は縄文の昔から
人びとの口を楽しませ、飢えから
救っ ....
秋月の夜の樹々のざわめき
風の卵たちが孵化しはじめ
餌を求めている誕生の産声
雛たちはまだそよ風で
樹々から養分をもらい
ゆるゆる葉は枯れ雛は
みるみる成長しながら
嵐への導火線を ....
ある朝、わたしは透明になった。
世界は膝を抱えて仰いだ青空であり
そこへとあらゆるものは落下していた。
それは重力という現象ではなく
存在という重心へと還っていく風景だった。
この風と岩 ....
緑陰を行くとき
ざわめきになぶられ
足音すら影に吸い込まれ
山野の骸になり
骨を雨風に晒して
いつのまにか
苔生していく
もう
誰にも
祈られない
石仏の膝もとで
やがて ....
月夜の庭の物陰で土と溶け合い
消失していく段ボールの記憶よ
何が盛られていたのか、空洞となって
久しく、思い返すことはないだろう
お前は満たされた器でなかったか
瑞々しい果実と野菜に陽の ....
遠い国の少年の歌声が柵を乗り越えて
仔馬がいなくなった落日に秋が来た
枯れ葉が地を水面をうちながら
次第に翳る空の気まぐれに高原で
樹々に寄りそう祖霊たちが笑っている
やがて色褪せて ....
雨上がりの午後、この街の空は
どこまでも行けるように青かった
アスファルトの窪みでは水たまりが
信号のいらない雲の往来を映している
あそこに飛び込んでしまおうか
革靴なんか脱ぎ捨てて ....
街灯の下で
佇んで
気づけば乾いた眩しさ
スマホを
みても
ボンヤリと
息をしてる
あっちへ行けって
開放感
が髪の毛の頑なな過去を
ほどいている
髪、乱している修羅場 ....
片われをなくした
ビーチサンダルが
木陰で居眠りしている
その片われは今、どこで
何をしているのだろう
波にさらわれ海を渡って
名も知らぬ遠い島で椰子の実を
見上げて流離の憂いを抱く ....
遠い落日から潮騒はやってくる
零れおちた輝きは
海硝子にはなれない貝殻たち
のこるものは夜光貝の
幻というかそけき冷たさ
空の螺旋のうちに響いている
遠のくということは淋しい
それは砂を ....
ひとつ 齧れば夜が欠けて
林檎は白い肌さらし
屋烏に及ぶ口笛の哀しき音いろに
艶めいて 夜の香りを染めていく
ひとは哀しく身はひとつ
ひとつ 齧れば夜が ....
太陽があまりに悲しい
あの永遠の寂寥のうちに
蒸発の悲鳴さえ許されないとは
風が、吹いている
あらゆるものの上にある空から
火と岩と水の星へと
そして冷たく聳えている街は
き ....
どうでもいいぢやないか
それは君のくちぐせであり
ぐうぜんにも 君からきいた
さいごのことばでもあつた
ひと月まへ 一緒に飲んで
別れ際にきいた いつものせりふだ
その前に何を ....
昏い海の波間で
人魚にもなれなかった
青白き亡霊たちは
海よりも深い森のなか
銀竜草の霧のなか
木漏れ日のような朝露から
こぼれ落ちたのだ
月の投げた銀の網が
のたり、と揺れて ....
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