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誰かを磔にしたまま錨は静かに沈む
泥めく夢の奥深く月の眼裏火星の臓腑まで
黒々と千切られた花嫁が吹かぬ風に嬲られる
カモメたちは歓喜と嘆きをただ一節で歌った
私刑による死刑のための詩形おま ....
覚め切らない皮膚 あまおとの影ふみ
ギターはたどる言葉のない遺言を
心から剥離した音は捨て猫のように理由を探さない
薄物のヒューマニズムを着せてはまた脱がす
週末の脈略は絶たれどこか乾いた ....
黒曜石は砕かれた
もうずっと昔のこと
何もかも失ってちっぽけな存在だ
もとの自分がどんな形をしていたか
思い出すこともできない
以来 変わらず尖ったまま
今も誰かの指が血を流している
....
悪びれることもなく時は捲れ
ゆるゆると確実に老いてゆく
胸に立ち込める冷たい霧
晴れる間もない
季節より早く深まったあなた
色づく言葉が黙々と
忘れ去られた詩人の墓を覆う頃
斜陽に目を細 ....
海が見える新興住宅地
まだ買い手のつかない広い区画には
イタドリ ススキ タンポポ
何処からともなくやってきた
柳や白樺の若木も生え
地面は覆い尽くされることもなく
盛り固められた土が腐 ....
絵のない絵葉書が届く
ことばのない詩が書かれていた
ピアノソナタが雨に溶けて
コスモスはうつむき顔を覆う
山の精気が少しだけ薄められ
ものごとを前にしてふと
過去からの声に手を止めている
....
胸のファスナーを下して
白い綿毛に包まれた
幼い夢の息の根を止めて
そうして入り日の燃え落ちる
血だまりへ
交わることで違え
意味を失する言葉のように
縺れたまま ひとつの肉塊となり
....
物憂い季節の飴玉を
煙る眼で舐めていた
「印象かもしれない
塗り潰された貝のように
破れたレースの隙間から
凝らす朝が射竦める
「人形かもしれない
あるいは蒼 誰かに ....
風の強い日にも蝶は飛ぶ
気流に乗って巡り
波を越えたり潜ったり
泳ぐようにすり抜けては
喉を潤す 揺れるクローバーに佇んで
ヨットのバーでカクテルでも飲むように
洒 ....
光で埋め尽くされて行く影
影で埋め尽くされて行く光
詩で埋め尽くされて行く空白
空白で埋め尽くされて行く詩
沈黙で埋め尽くされて行く会話
会話で埋め尽くされて行く沈黙
過去で埋 ....
春 そよ風の優しい囁きに
夏 肌を滑る熱い眼差しに
秋 想い出の肩を包む腕に
冬 肌の温もりの静けさに
とろけても ながされない
自分のかたちを失くさない
凛としてつめたく だけど
....
乗り合わせた連中と
サイコロ振ったりカードを捲ったり
酔っぱらって歌ったり
ここで生まれた
もの心ついた頃には船の上
過去の航跡をぼんやり眺め
濃霧に満ちる行き先に目を凝らす
詳 ....
長い雨のレースを開けて
六月の陽射しが顏を出す
反射して散らばる子供たち
ビー玉みたいに素早く駆けて
ひとり離れて
シロツメクサを編む
首の細い少年
意識されることもなく
満ち ....
黄色いシーソーが二つ
同じ方を下げて
ならんで寝ころぶ恋人同士みたい
ブランコも二つ
風にほんの少しだけこぎ出して
仲睦まじそう
のっぽの滑り台はひとり
空を見上げている 雨が ....
藤は支えが欲しかった
己が生きて行くための
桜は藤を必要としなかった
だが支える力は持っていた
今では一本の木のように
鬱蒼と密にからみ合うが
異なる性を持つもの同士
時を違 ....
おとなになれなかったこどもは
おとなロボットに乗った
大きくて頑丈 パワーがあって
こどもには持てない武器をたくさん搭載していた
こうしておとなロボットは戦場へ出て行った
いったい誰がおとな ....
揺るがないものが揺らぐ
仕方のないこと
ありのままを見ているつもりで
水鏡に映った姿を見ているから
冷やかな風にさざなみ
優しい陽射しに微笑み
自らの夢を重ね映して
時を凍らせた写真 ....
灰色の道の上に
ひとつの疑問が落ちていた
ずいぶん昔 この胸に生まれ
しなやかに若木のように育ち
そして出て行った
いつか答えを見つけるのだと
朝の光が包む白い道を
振り向くこともしない ....
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