繋ぎそびれた手はあてのない旅に出る前にポケットにしまって、
聞いていなかった話の続きを頭の中で作って笑う。
どうしたの?なんて言われる前に糸口を爪で引っ掻いて剥いだ。
患っている。百も ....
いつの日か届くと疑わなかった僕らの文明が崩壊していくのだとしたら、
今密かに繋いでいた手を解こう。
肌を寄せ合うだけで満足なら受理されない契約書を破ろう。
叡智を極めてもあの{ルビ巨= ....
期待はするな、恥じる眼が行き来する、小さな火傷が少し痛いな。もう二度と会えないような気がしているのは何となくわかっていたのに、古びた喫茶店で呷る珈琲。シロップを探す僕は句読点で三分割、あ、 ....
月のにおいに騙されて
何度も弄ってみたけど
君はとうに冷たくて
はだけた呼吸がきこえない
窓のそとは晴天で
あしたの海を汚している
僕らはよごれた布のうえ
ほおに波だ、と眠 ....
飛び込んでいいかい?圧死する芥虫は誰かの靴底で汚れない月を羨む。待ち焦がれるのには飽きたのだ、もう惑う時間すら残されていないなら高く飛ぶ方法を考えろ。砕けた硝子の消えてしまいそうな傷跡が残 ....
青い日はいずれ熟していくのだとしたら、次の季節の僕は誰の腕から逃れているのだ。さようならも言えずに去る君の曲がり角は何度だって曲がろうぞ、それで君が帰ってくるのであれば。春を待つ正しい月の ....
迎えたくない明日を拒む方法を知る由もなく、抗うように眠らない日々を愛することなど出来んのだ。昂ぶり尖った神経が針みたいになったら、悴んだ掌の毛細血管を紡いで瞼を縫い付ける。冬はいつだって僕 ....
無性に悲しくなった夜は、あの日の海を思い出すようにしている。じゃぶじゃぶと潮水を掻く五本の指は江戸川に浮かぶ最後の島の油脂工場のにおいがした。空っぽの内臓を埋めるのはささやかに享受するディ ....
空のナイフを持て余し、いつでも誰かをぶっ殺すような覚悟で歩いていく。狭い空の色を覚えているかい?薄曇りの麹町は細切れになってしまったがそれはそれは不安なほどきれいな紫。向こう側を望んでば ....
肺の中で泳ぐ金魚を僕は懸命な慟哭で逃がしてやるのだ。
これは美しき嘔吐か、春愁なる喀血。
生殖機能を持ち合わせておらんこの{ルビ膚=はだえ}を寄せ合うのは罪かい、神様。
お前の不思議な ....
頭痛がするくらいの妄想で大雨の中を掻き分けて迷走中、沈みそうに不安定な僕の手を取って、摂氏三十六度の円を構成した。死のうが死ぬまいが地球は廻ってしまうとか何だったかな。天国に続く神様の方舟 ....
加害者だらけのこんな夜には、からからに息絶えた蝉の気分で夏は続くのだ。喪服の人影に懐かしい匂いと粉々になった灰にバランスを取った、汗ばんだまま笑っていた。会いたいと思ったら負け、僕の完敗。三番線発の ....
句読点の多い僕の言葉がいつまでも果たされない遺書のように真っ白い画面の中でぶら下がっている。だらりと舌を出し、眠るような瞼の重さで。君の罵倒を編みこんでロープにしたら、その先にある扉を開い ....
空の青で僕の皮膚が少し色付けばいい、雲を絡めたこの腕を間の抜けたサイレンで切り落として標本にしよう。人身事故で停まる腥い湿度の車内で君に手紙を認めた、大丈夫。何を書いても君は!破り捨てるん ....
世界で一番劇的な夜、春嵐の放物線で恋が終わる。誰にも届かないシトラスグリーンの鮮血に、小麦の焦げる匂い、聞きたくない雑音を消す爆音をなくしたまま、漂流しようにも浮かべず、ただ、だらだら弱音 ....
一線を引き続ける僕らの鉛筆が迚も長いことを全部夕景のせいにして、要らない考えを消去しなければ。こんな小さな東京でどうして君には遭えないんだろう?僕は馬鹿に冷静で、狂うことすら覚束ず、右手の ....
いつだってどこからか血は滲み続けていた、永遠は常に鬱屈する幻想である。時限爆弾を抱えたまま、足りない風速に呼び寄せた白波が消波堤に砕けて、無意味な傷に{ルビ汐=うしお}は届かないと知って。 ....
地球の真理はマグマの中で理路整然、日射しに溶ける影に滲む。僕らの夜明け前にも似た青さは尖っていた、港行きの切符で涙を拭う男は海に砕け散る。赤線地帯で女衒は笑ってさようなら、明日はきっと来な ....
三月の素晴らしきやさしさが
僕をどこかへ追いやってしまいそう。
何もないように触れた
虚しい熱が掌に帯びる。
名前のない関係で
繋がり続けてはいけないんだ。
温い毒にまどろん ....
君の爪を追い駈ける僕の瞳が乾いている。選んだカードで犬が吠え、西の空に嬰児を孕む満ち過ぎた月がじっとりと沈む。辰巳の空中から見た東京の亡霊がゆっくりと赤色の息を吸い、そして吐く。月桂樹の輪 ....
そうか、知らない町へ行くのか、もう少し僕に喋らせてよ。もうすぐ来る季節にどんな気分で臨もうか。競合する原風景の眺望、{ルビ世界=WORLD}の真っ只中で見透かされそうな暴走、ささやかな歌や ....
二十九日の月の入りは針より細い影を爆ぜ、じっとりと赤く、まるでひとつの粘膜のように侘んでいた。地球照が薄仄かに冷めていく、そのひとつに漸く君をしる。海に還ろう、君の手を取って、僕はあの潮流 ....
真っ黒な世界がもうすぐ終わるとか考えていた数年前の祈る手の影、新しい洗脳、未来のシンパシー、軽い衝動で。風の強い国で君を見失い、あれだこれだと結論ばかりで手を汚さずに土を掘るやり方で満足していた。僕 ....
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