ストレンジ・フィールドにさよならを
雨を乞う

 

 世界で一番劇的な夜、春嵐の放物線で恋が終わる。誰にも届かないシトラスグリーンの鮮血に、小麦の焦げる匂い、聞きたくない雑音を消す爆音をなくしたまま、漂流しようにも浮かべず、ただ、だらだら弱音を吐き続けた。芥のような虫が靴底で圧死するのを、僕は神経を鋭敏にして感じていたよ。これを快楽と呼ぶには忍びない、泥土のような気持ちで、さよなら、無口な人。

 あの海を目指さなくなって、また一つ、季節が僕の手の届かぬところへ走り去っていく。求めるだけでは物足りず、さりげない裏切りだなんて、欲張り。チョコレートの芳ばしさ、高鳴る踵のリズム、そんな些細な要因で僕らはダメになっていく。

 平穏を装い続けた、内臓はもう夙に腐っていると言うのに、僕は普通だなんて言葉を使う。こんなに愛のない四月が来るなんて思わなかった、ひとつも手に入らなかった解答に、少しも黒くならない答案用紙に、荒くなっていく呼吸を止められない。これもまぼろしの国を目指す旅路だというなら、心を亡くしても溺れ続けなければならないんだな。



 もう逃げられないとわかっているから、逃げることばかり考えている。


 


自由詩 ストレンジ・フィールドにさよならを Copyright 雨を乞う 2008-04-24 22:10:57
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