{引用=老けてゆく天使}
明るい傷口だった
セックスはままごと遊び
片っぽ失くした手袋同士
始めから気にしなかった
一個の果実のような時間
なにも望まなかった
白痴のように受け入れて
 ....
{引用=カラスのギャロップ}
北国の春は犬連れでやって来る
ぬかるんだ地の上を
着物の裾を汚しながら遅れてやって来る
太陽は雌鶏
ぬかるみが半分乾いたころ目覚ましが鳴って
あとは忙しく吹い ....
{引用=フランス白粉}
エッフェル塔みたいに立っている
女の股を風がくぐり抜けた
いつも意図せずやって来る
自分の中の誰かが世界を刷新する





{引用=神の時計}
人は一個 ....
{引用=孤独という架空の質感}
脳の北半球を俯瞰して人魚を数えた
四を三つに切って酒瓶を左に折れる
鴎と散った手紙の風が結わえ損なったもの
互いの時間の屈折率
きみの脚が鎌首をもたげている
 ....
 *

燐寸一本の囁きで
秘密は燃えあがる
煙は歌い
香りは踊り
時間は灰に
わたしはおしゃべりに



 *

コンマ一秒で宇宙の果てにまで移動したかのよう
喪失の悲しみ ....
{引用=水辺の仮庵}
月は閉じ
口琴の瞑る仕草に川の声
白むように羽ばたく肌の{ルビ音=ね}の
ふくらみこぼれる光は隠れ
ふれて乱れたこころの火の香
探る手をとり結んだ息に
ふりつむ{ル ....
{引用=転倒者}
氷の上を歩いて行く
遠い人影よ
鴉のようにも文字のようにも見える
視覚より内側でランプが照らした顔
ありきたりな片言の答えをかき混ぜる
ティースプーン 
濁った銀
だ ....
{引用=冬の髪の匂い}
雪の横顔には陰影がある
鳥は光の罠に気付かずに
恐れつつ魅せられる
歌声はとけて微かな塵
雪はいつも瞑ったまま
推し測れない沈黙は沈黙のまま
やがてとけ
かつて ....
{引用=衝突}
虚空をただひたすら遠く
時の道を踏み外すところまで
それとも落下
全ての存在の至るところ
深淵の 
真中の
針先で穿たれたような一点へ
そんな慣性のみの
生の旅路であ ....
{引用=まんざら}
空は頬を染め地の温もりを剥ぎ取った
黒々と虚空をかきむしる預言者たち
火を呼び下すこともなく炭化して
瞑る睫毛のように夜を引き寄せる

真昼の夢はいま落日にくべられる
 ....
{引用=暴走}
釣りの仕掛けで編み込んだ干し草の下から
濡れた小さな宇宙が瞬いて
一点の鋭い感覚の見返す素振りを隠匿する
穏やかな果実の陰影
光の脂粉ただよう傷口からは
食虫花の祈り
引 ....
{引用=ヨナクニサン}
大地の振り上げた鞭が三日月に絡んだ朝
重さを失くした新雪をふるい分けて這い出した
ヨナクニサンの群れ
マイナス8℃の空気をふるわせて厚い翅はゆらめく
縄文の焔 畏怖と ....
床暖房に腹ばいで熱燗を飲んでいる
外は激しい吹雪


絵の具の花の赤い一行が見えた
わたしの一番小さいマトリョシカは神隠しにあったまま
帰らない 
夜の袋にしまわれたまま
アカシアの棘 ....
冬の太陽が弾丸みたいにサイドミラーではじけた
盲人の手を引いて地吹雪を渡る声

活字から落ちて 雪と見紛う
針葉樹を穿つ弱々しい木洩れ日たち


瞬間から瞬間へ
印象から印象へ
生の ....
{引用=白心中}
唇の合掌
耳は氷柱みたいに澄んで
睫毛の雪がとけた

遭難と凍死を繰り返す
冬眠できない二人
こうしてまた長い
白昼夢の時代を迎える





{引用=ゼ ....
{引用=*}
せり上がった斜面から景色は傾れなかった
すっかり土色になって個を失くしつつある
落葉の層の乾いた軽さ 熊笹の有刺鉄線
汚れた雪がところどころ融け残っている
眼は狐のように辺りを ....
{引用=*}
イメージの蕾の中にわたしはいた
わたしはわたしの真実をゆっくりと展開させていった
孔雀の眼差しを持つ蝶があなたの目蓋から飛び去った
わたしはなおもあなたのイメージの中にいたことだ ....
夜の死顔は隠匿される
太陽による窒息死
視覚の分厚い曖昧に覆われて
悪夢の下着を脱いだ獣の顎骨から
乱立するギヤマンの伽藍
涸れた河床を磨かれた顔たちが遡上を始める頃
剥離した脱落者は紐で ....
{引用=声の肖像}
どこかで子どもの声がする
鈴を付けた猫がするような
屈託のないわがままで
なにもねだらず行ってしまう

風がすまして差し出した
果実は掌で綿毛に変わる
ぱっと散った ....
寒さがやさしく悪さして
濃い霧がおおっていた

蜂のくびれにも似た時の斜交い
あの見えざる空ろへ
生は 一連の真砂のきらめきか

四つの季節ではなく
四つの変貌の頂きを有する女神の
 ....
{引用=破産者の口笛}
あなたのうなじの足跡
夢からずっとついて来て
真昼に座礁した
摩耗してゆく面差しの焔

古びた空想科学
瞑る金属片の美しさ
叶わないで狂うわたし
鏡の海に爛熟 ....
{引用=習作たちによる野辺送り}
鏡の森から匂うもの
一生を天秤にのせて
つり合うだけの一瞬
混じり合い響き合う
ただ一行の葬列のため

 *

軒の影は広く敷かれ
植込みの小菊は ....
休日は地獄耳
落下する電車の静けさ
天井からぶら下がっている
こめかみの光 カミキリの声
傾斜し続ける 声の影
ぶどう酒色に濁った季節
腕をひねり上げる
  自由――自己への暴力

 ....
{引用=胡桃の中身}
感覚と本能の間
奇妙な衣装で寸劇を繰り返す二人
台詞を当てるのは
土台無理なのだ
虎はいつだって喰いたい
馬はいつだって逃げたい
やがて波打ち際
血まみれの馬は海 ....
{引用=換気}
現実は醒めない夢
一生いぶかしみ
出口を模索する
後ろで窓が開く
気配だけが淡く恋





{引用=かくれんぼ}
風もないのにブランコが揺れた
瞳の奥の赤錆 ....
持て余すではなく弄ぶ
徒然に
  雨垂れの独白を
聞き入るでもなく聞き流し
滴る血の鯨肉
  アメリカの小説を想う


コロナという病が流行り出したころ
あおりを食ってコロナビールが ....
{引用=うたごえ・一}
空気の花びらが散って
時折ほこりが舞うように
手をふって消える光の棘



{引用=うたごえ・二}
その肉体は一本の弦だ
わななきながらさまよって
わたしの ....
巨人の頭蓋の内側で
天井画を描き続けている
孤独なロウソクのゆらめき
舌の閃き いのちの虚飾

わたしたちは互いの羞恥をめくり合った
どの顔も黒焦げのまま燃え残りくすぶり続け
追慕は灰の ....
{引用=犬も食わぬ だとしても ただ己の生前供養として
またも雑多な感傷を一つの籠に盛り合わせてみる
秋を想わざるを得ない日 繰り返される儀式として}


{引用=ひとつの面差し}
睦まじ ....
{引用=忍路・蘭島}
翡翠と書いてカワセミと読む
そんな宝石が飛び去る刹那の後姿を
有難い気持ちで見送った

3500年前の環状列石は
見かけも手触りもありふれた石
そりゃあそうだろう
 ....
ただのみきや(1061)
タイトル カテゴリ Point 日付
パンドラがあけた大きい方の玉手箱自由詩5*22/3/27 12:10
言葉の煽情的ボディライン自由詩8*22/3/20 15:34
熟れた瓜ことばに固い貝ことば自由詩4*22/3/12 15:57
美化推進委員会自由詩2*22/3/6 13:40
振り上げた拳で自らを力いっぱい殴る人のために自由詩3*22/2/27 14:17
ノクターン自由詩3*22/2/19 17:02
ラジオ切腹自由詩1*22/2/12 15:41
ポケットには丸めた鼻紙だけのくせに自由詩5*22/2/5 15:25
泥棒する青空自由詩5*22/1/30 15:19
記号を嗅ぐ自由詩3*22/1/23 14:33
冬の嵐自由詩022/1/15 18:28
まずは釘で傷をつけてから自由詩4*22/1/9 13:37
火傷と神隠し自由詩3*22/1/2 13:30
雪原を駆ける海馬自由詩2*21/12/26 13:05
寒くなると物忘れがひどい自由詩3*21/12/19 15:21
image/damage自由詩3*21/12/12 13:25
都度流失するものたち自由詩0*21/12/5 13:39
素体回帰自由詩3*21/12/1 18:21
演者たち――眼差しの接吻自由詩5*21/11/20 17:36
いのちの湿度自由詩7*21/11/13 13:46
ひなびた温泉宿で芸者の幽霊と興じる真夜中の野球拳あとひと息あ ...自由詩3*21/11/6 23:27
知らずにもとめて自由詩8*21/10/31 13:12
指さす先になにもない自由詩2*21/10/23 16:27
なんじゃらほい自由詩4*21/10/16 15:11
頭痛の種をつまみにして自由詩4*21/10/10 12:31
徒然に散文的詠歎を自由詩3*21/10/3 13:48
詩の歌声自由詩4*21/9/26 13:11
最初から灰だった書物へのオマージュ自由詩3*21/9/19 14:03
傷んだ果実の盛り合わせ自由詩3*21/9/11 12:46
玉手箱自由詩7*21/9/4 14:39

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