今迄の僕は 
どれほど多くのまなざしに
みつめられてきただろう   
どれほど多くの手に 
支えられてきただろう 

今、僕は、ようやく 
幹の内側からいのちの歓びを{ルビ呻=うめ}くよ ....
なかなかはいはいしなかった周が 
ある日突然、棚に掴まり立ちあがった。 

「すごい、すごい」 
諸手を叩いて、僕は言う。 

「ぱ・・・ぱ・・・、ぱ・・ぱ・・」 
こちらを向いて、周が ....
江戸の町を外れた木々の緑の林道を 
刀一本脇に差し 
首輪を繋いだ愛犬つれて 
{ルビ悠々=ゆうゆう}と風を切り 
西郷どんは、ずんずん歩み往く 

勝海舟の願いを聞いて 
江戸の戦火を ....
帰りの電車に揺られながら、頁を開いた 
一冊の本の中にいるドストエフスキーさんが 
(人生は絶望だ・・・)と語ったところで 
僕はぱたん、と本を閉じて、目を瞑る 

物語に描かれた父と幼子を ....
晩飯のおかずを箸で摘み 
炒めたもやしを、食っていた。 

一本の長く萎びたもやしが 
「風」という文字になり 
誰かの顔のように 
皿にへばりついて、僕を見た。  

もしかしたら  ....
今迄の僕は 
サラダにドレッシングを 
どばっとかけては 
じゅるじゅる汁を吸いながら 
緑の葉っぱを{ルビ咀嚼=そしゃく}していた 

ある日、寄ったレストランで 
出てきたサラダの器 ....
箸は二つで、一膳です。 

誰かの手に持たれ 
一つの食を摘みます。 

君と僕が夫婦であるように。 
掌の葉脈を、陽に{ルビ翳=かざ}す。   
樹液は枝葉に沁み渡り 
樹液はからだに沁み渡り 
木の人となり、陽を浴びる―― 
夜の部屋で 
ぎたあの絃を爪弾けば 
音のふるえは{ルビ静寂=しじま}に消えて 
再び秒針の音は響く 

繰り返される毎日に
どうすれば僕は 
音のふるえとなるだろう? 

単調なる ....
家に帰って、腰を下ろし 
一才の周をだっこすれば 
小さいいのちの温もりが 
このお腹にあったかい 

この両手を 
短い足の膝下に組んで 
右に左に、ゆさり、ゆさり 

パパは君の ....
私は花を、あなたに渡す 
あなたの瞳に映る花 
私の瞳に映る花 
ふたりの間にひらく、喜びの花 
戦中・戦後を生き抜いた 
ある詩人が世を去った後 
長い足跡のつらなりと 
ひとすじの道の傍らに 
彼が種を蒔いていった花々が開き始める 

今迄の僕は 
別の場所で夢を求めていたが 
 ....
窓のすき間から風は吹き 
グラスの筒に包まれた 
ぼやけた蝋燭の灯は 
世を去ったあなたの魂となり
赤々と燃えています 

なにかを囁いているように―
あの日の歌の調べのように―
躍動 ....
フロントガラスの前に広がる 
いちめんの里芋畑で大きい葉群が 
わらわら踊ってる 

ここは、公園の駐車場。 
ベートーヴェンの協奏曲が 
カーラジオから 
生真面目で軽快なヴァイオリン ....
名曲喫茶の木目のドアに 
手書きの黒いマークが
貼られていた 

  ●Y 

それはドアの真中で 
諸手をあげて生を歓ぶ 
ひとりの子供の姿であった
伊豆高原駅から 
赤沢へとバスに乗り 
日帰り温泉館の4階へと上り 
露天風呂に身を沈めた 
目の前は、いちめんの太平洋 

(あ、雲が崩れて金の鳥に・・・) 
そう思った次の瞬間 
 ....
深夜のベッドに横たわり 
スタンドの灯の下には 
無数の塵が舞っていた 

日中は見えないものも 
照らされて姿を現すように 

静まり返った街の夜空に 
無数の(見えないもの)は 
 ....
太陽 
月 
仏陀 
神 

(それらを含んだ風のしらべよ) 

わたしが昇ればあなたは昇り 
わたしが降りればあなたは降りる 
わたしが歩めばあなたは歩み 
わたしが止まればあな ....
だらりと垂れ下がった両足の 
Sさんが住む団地のドアを 
「おはようございます」と開けてから 
僕と同僚で、車椅子の前後を支え 
(重たい・・・)と心に呟きつつ 
がたん、がたん、と階段を下 ....
横浜市戸塚区の伊太利亜料理屋で
{ルビ葡萄酒=ぶどうしゅ}を一飲みした後、トイレに入る 

  * 

薄明かりの狭い空間で 
{ルビ蔦=つた}の彫刻のからまる壁に凭れ 
鏡に映る 
 ....
鏡の前の
リクライニングに座り 
鋏を手にしたおじさんに
全てをまかせて、瞳を閉じる 

ぱさ、ぱさ、と切り落とし 
頭はだんだん軽くなる 

ぱさ、ぱさ、と切り落とし 
心はだんだ ....
早朝の散歩で 
ふと、こちらに合図した 
草の露に宿るひと粒の太陽 

それがこころの鏡なら 
一体どんな思いを
反射して 
私は歩いてゆくだろう―― 
今日も少女は古着姿で 
脇に小さい黒板を抱え 
貧しい{ルビ童子=わらべ}等の集う学校へ続く 
土の道をゆくだろう 

今年も一年、この黒板に 
どれほど白いチョークの文字が 
書かれて ....
名曲喫茶の壁に掛けられた 
額縁の中で 
貴公子のようにすっと立ち 
時を越え、こちらをみつめる 
リストの目 

(こちらに来なさい・・・ 
 世を去った私達の賛歌に耳を澄ましてから  ....
息を吸っては吐いて 
(呼吸)になる 

大きい器にふたをして 
(鍋)になる 

たまたま出逢った男と女が道に並んで 
(夫婦)になる 

ぱち、と上下のまぶたを閉じた 
瞬間
 ....
何処からか舞い降りてきた 
小さい{ルビ埃=ほこり}の影が 
開いた頁の余白を 
通り過ぎていった―― 
ふいに足を止めた、夕暮れの帰り道。 

畑の道の傍らに、夕陽のあかねに染まる 
とうもろこしの草々は、きれいに整列して 
緑の背筋をまっすぐ伸ばし 
両腕の葉をひろげながら 
顔を揃えてに ....
なけなしの金を 
銀行ATMから下ろして 
伊東への旅に出たら 
財布も口座も 
すっからぴんになってしまった 

安月給から食費だけは 
嫁さんにあずけているが 
幼い息子と3人で  ....
なぜ彼等はあの日、自ら日々の線路を下りて 
漆黒の闇の彼方へ堕ちていったのか――? 

地上に堕ちた天使等は、時に 
ふたたび空へ舞いあがってゆくだろうか――? 

地上に遺されたひとりの ....
日々の職場で、ある日  
宿題が、天からふってきた 

不器用な僕が 
眉間に皺を寄せる 
難解な教科書の、設問 

この小さい両手の皿から 
今にもあふれそうな
こぼれそうな、なに ....
服部 剛(2148)
タイトル カテゴリ Point 日付
いのちの歓び 自由詩8*13/1/21 21:03
喜びの日 自由詩5*13/1/21 20:52
西郷どんは今日も往く 自由詩6*13/1/17 22:45
天使の声 自由詩10*13/1/14 22:28
風の顔 自由詩6*13/1/13 21:59
サラダの味 自由詩3*13/1/13 20:45
箸 自由詩3*13/1/12 9:35
木の人 自由詩3*13/1/11 23:49
いのちの音 自由詩5*13/1/11 23:40
あたらしい歌 自由詩7*13/1/3 12:29
日々の花束 自由詩3*13/1/3 12:10
夢の署名 自由詩10*13/1/1 21:01
聖夜 自由詩312/12/31 21:33
みどりの言葉 自由詩612/12/31 21:17
「 TOILET 」自由詩212/12/31 20:56
日々の旅人 自由詩512/12/29 23:58
消灯の刻 自由詩512/12/29 23:37
誰かの足跡 自由詩412/12/18 19:01
階段昇降の詩 自由詩512/12/18 18:44
ゲエテの瞳 自由詩312/12/16 23:03
床屋にて 自由詩912/12/16 22:35
草の露自由詩812/12/15 18:55
道 自由詩212/12/15 18:44
リストの指 自由詩112/12/15 18:30
目をひらく 自由詩112/12/13 18:09
出逢い 自由詩212/12/13 17:58
あかね色の畑 自由詩312/12/13 17:55
からっぽの旅  自由詩712/12/5 0:13
風の息吹  自由詩212/12/4 23:58
日々の設問自由詩112/12/4 23:45

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