心象の野原に並ぶ
秋桜の群のひとりは
しきりに、揺れて
無音の声で僕をみつめ、囁いている
花弁の淡い唇をみつめるほどに
野原は時のない国になり――
若き日の父母の間に
....
僕をみつめる妻の目に、炎がめらめら燃えている。
「人の意見に惑わされずに
あなたの道を、往きなさい」
「椅子の足の一本が折れたらどうなる?
あなたの姿を、信じなさい」
....
梅干の種には、味がある。
檸檬の種にも、味はある。
誰にも固有の種があるように。
高層ビルの屋上から
ロープに吊り下げられた
ゴンドラに乗り
清掃員は10階の窓を拭く
(決して、下を見てはならない)
気紛れな北風に
ゆさぶられ
風の刃は頬に冷たい ....
この胸にぽつん、と備わっている
暗闇のメトロノームは
絶え間なく、高鳴ってゆく――
もし、緑の台の上に
停まっている、黄色い玉が
あなたなら
男が狙いを定めた、棒の先に
打とうとしている
あなたの{ルビ運命=さだめ}は
一体何処へ転がるだろう?
黄 ....
あの紅葉に燃える木の下にいってみよう
あのみどり深い木の下にいってみよう
あの石橋の向こうの赤い屋根の家の窓から
ひょいと顔を出して、世界を眺めてみよう
戻ってきたら、石橋の(絵の中心 ....
「二十世紀」と「ラ・フランス」は
親しげに肩を並べ
(互いにちょっとの、すき間を空けて)
顔も無いのによろこんで、佇んでいる。
「偶然だねぇ」
「ふしぎねぇ」
ほの青さ ....
犬が一人きり、吼えている。
見知らぬ国の
誰も行ったことのない森の
ごわごわ風に身を揺する
名も無いみどりの木の下で
その遠吼えは
あまりに切なく
心を貫き、刺すよう ....
なんだかわからない(イチモツ)を持ち、
浮かない顔で、うす暗い町を漂っている。
病のような、玉のような、見えないもの―
コイツを断ち切れたら、どんなに{ルビ晴々晴々=せいせいはればれ}
....
俺は
俺以上でも
俺以下でも
無い
みじめな俺も、俺。
時折かっこイイ俺も、俺。
どちらも、俺。
ならば?
悩みの全ては外面上の(夢)であり
俺は俺として、俺を背負 ....
目が、後ろから、僕を視ている。
空気に溶けた、透き通った目
の
声がする
(負けないで…)
なんでこんなにもじんわり
ハートに滲み入るのだろう
(どくり…どくり…どくり…) ....
赤信号が、青になる{ルビ瞬間=とき}
気づいたら右足はアクセルを、踏み
車は、動き出していた
まっさらな明日へ至る
まっすぐな道を走る時
ハンドルを持つ
私の脳は、{ルビ空 ....
誰かを大切に思う時
心の家に住まう
何者かの気配を感ずる
え?って思っても
ちょっと自分のエゴをずらして、さ
ちょっと相手に合わせてみりゃあ
案外、うまくいくもんだ
私は私を{ルビ晒=さら}すように
自らを日向に、置いてみる。
天の願いは地へ下り
自ずと夢は実るような気がしてくる
もしその道を歩んだらと
目を瞑り、{ルビ想像=イメージ}してみる
そこに光が射すなら――
すでに・今
道は始まっている
(死にたい)と思った青年が
ずぼり…ずぼり…とふらつく雪道で
北風の吹くままに入った
イスキアの家で
「どうぞ」と置かれた
初女さんの握るあたたかい
おむすびを食べた後、ほっ… ....
高層階のCafeで
いちめんの窓に広がる
扇の街を
ぼんやりと眺めていた
煙突から
ひとすじの煙が昇っている
灰色の煙はしゅるしゅる
空の青へ
吸われるのを見て ....
針を手にした(無心の手)は
今日も、布地を進みゆく
長い間歩いて来た
あなたと僕の足跡は、あの日
{ルビ布巾=ふきん}の遠い両端から始まり
それぞれに縫われる糸のように
....
窓の外の遠くには
丘に建つ一軒の家があり
四つの窓が
目鼻のように開いている
□
□ □
□
あ、窓から子供が顔を出して緑の風に{ルビ靡 ....
ポケットから取り出した
懐中時計が、暖かい。
妻の贈りものの蓋を開け
秒針の刻む、時を視る。
僕は今、在りし日の詩人の書斎で椅子に座り
木目の机上をスタンドの灯が照らして ....
熱血上司は耳をまっ赤にして
デイサービスのお年寄りを
皆送り終えた、スタッフの中へ
ふつふつとやって来た。
「なぜ敬老祝いの紅白まんじゅうを
○○さんに届けないいぃ…!! 」 ....
ごろごろ、ぴか、どかーん
遂に熱血上司の雷が、頭上に落ちた。
焼け焦げた姿のまま、そろ…そろり
逃げ帰ろうと思ったが
見えない糸に背中を引かれ
くるり、と引き返す。
熱 ....
山桜を眺めると、落ち着いてくる
白い花々は、何処かうつむいているから。
山桜を通り過ぎると、落ち着いてくる
派手さは無く、思いをそっと抑えているから。
遥かな国の方向へ
さ ....
金の夕陽を反射して
仄かなひかりを増しながら
炎の{ルビ矜持=きょうじ}を秘めている
稲穂の姿に、私はなろう
友よ、{ルビ覇気=はき}を以って
日々の場面へ
いざ、突入せよ――
寒暖を繰り返しながらも
季節は、僕等を乗せた舟のように
羅針盤の指す方向へ
今も流れているのでしょう
異国の日本で差別に苦しみ
生き延びようと闘った果てに
牢屋に入った外国の人
地上に出た新たな日々で
日本語学校に通い始め
ある日、掛け算の九九を覚えた
「3×8は ....
{ルビ深閑=しんかん}とした井戸の底で
今夜も私は、{ルビ蹲=うずくま}る。
遥か頭上の丸い出口の雨空に
嵐はごうごう、吹き荒れて
木の葉がはらはら、鳴っている
遥か ....
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