「個人的なジコが起きたんだ」
老人ホームの会議で夜遅くなった帰り道
同僚は先日別れたばかりの
妻と子の話を切り出した
涙を{ルビ堪=こら}えた瞳で手を上げた彼は
交差点を渡って
....
ひだまりに
たたずむ石
ひとりきり
あたたまり
地にのびる
まあるい影
水をふくんだ枝
水をふくんだ花
水をふくんだ土
山を流れる川のほとり
岩肌を覆い
染み渡る水に喜び
起き上がった
無数の苔
( か細い茎から
( 見えない胞子
....
雨上がりの高尾山
散策の一行は
山を愛するおばちゃんのガイドに
耳を傾けながら
濡れた山道を往く
ある者は
ひとすじの細い茎の上に
寄り添い
束ねられた家族のよう咲く
....
喉が渇いたので
駅のホームのキオスクで買った
「苺ミルク」の蓋にストローを差し
口に{ルビ銜=くわ}えて吸っていると
隣に座る
野球帽にジャージ姿のおじさんが
じぃ〜っとこ ....
夜空を指す
背の高い木の枝先に引っかかった
宛先の無い
青い封筒
何処にも届けられぬまま
あやうく風に揺れている
( 無闇な言葉ばかり、{ルビ零=こぼ}れ落ちていた。
( ....
彼は探していた
花束を手渡す
たった一人の{ルビ女=ひと}を
高い壁に挟まれた路地
いくつもの窓の隙間から
漏れる{ルビ喘=あえ}ぎ声を耳に
彼は通り過ぎた
( 一面の曇り ....
その人の瞳の内に
永久の春が在り
遥かな昔から
桜の木が立っている
冬の冷気を越え
降りそそぐ春の日射し
今にも開こうとする無数の蕾に
こころは{ルビ軋=きし}む
....
フェンスの下に
種は{ルビ蒔=ま}かれ
土から小さい顔を出した
緑の芽
いつしか
空へと背丈を伸ばす
一本の木
錆びた金網は樹皮に喰い込み
幹はフェンスの{ルビ ....
コーヒーショップのテーブルに
プラスティックのコップがふたつ
うずまいたくりーむふくらむ
アイスカフェ・ラテSとM
仲良さそうに並んでる
テーブルに向き合う
ふたつの{ルビ ....
朝起きたら
いつも台所に立つ母が
地を這う赤ちゃんになっていた
家を出て
電車を待つ駅のホームには
はいはいのまま赤ちゃん達が並び
全ての席は座る赤ちゃんに埋め尽くされ
....
小学生の
ガキ大将が子分に肩を組み
「 お前はまだ{ルビ0=ゼロ}人前だ 」
と言いながら
目の前を通り過ぎていった
大人になっても0人前のわたしは
誰に肩を組まれるでもな ....
僕は 詩 というものの縁で、幾人もの友と出逢ってきた。もう会
わない友もいれば、長い付き合いになるであろう友もいる。かけが
えのない友がいながらも、僕等は時に「ひとり」を感じてしまう。
そ ....
昨日はきみを傷つけたので
布団にしがみついて
うつ伏せたまま
闇のなかに沈み
眠った
夜が明けて
目覚めると
窓枠の外に広がる
朝焼けの空
ふわりと浮かぶ
....
コンビニのレジの後ろに
「 迷子です 」
と貼り紙のついた
こどもの靴が置かれてた
つまさきをそろえた
寂しげな迷子の靴
なぜかぼくの足にぴったりに思え
後ろ髪を引かれ ....
ひとりの部屋で
哀しい唄を聞きながら
歌詞を机にひろげて読んでいると
窓からゆっくり日は射して
机を覆う影は
波のようにひいてゆく
*
窓の外を見ると ....
灰色の壁に囲まれた
音の無い部屋
黒い衣を身に{ルビ纏=まと}い
「死」を決意した病の老女
一点をみつめ
椅子に腰かけている
( 左手の薬指に今も{ルビ鈍=にぶ}く光る
....
緑の葉を一枚
唇に{ルビ銜=くわ}え
言葉の無い唄を奏でる
黒い影の姿で空を仰ぐ
わたしのまわりが
ひだまりとなるように
* この詩は「詩遊人たち」 ....
子供の頃
両親のあたたかなまなざしに
まもられて
幸せはいつも
「 そこにあるもの 」
だった
やがて大人になり
自らの手を伸ばし
{ルビ掴=つか}もうとした
....
ひとりの少年が
壁をつたうパイプの上を
猿の手つきでのぼってる
壁の頂で少年は
( 見ざる・言わざる・聞かざる )
のおどけたそぶり
次の瞬間
頂から
両腕ひろ ....
昨日は職場のおばさんの
くどい{ルビ小言=こごと}に嫌気がさして
かけがえのない他の人さえ
土俵の外へうっちゃり
しかめっ面でひとり相撲をしていた
昨晩見た夢のなかで
旧友 ....
だうな〜で
仕事さぼった翌日に
こころの{ルビ垢=あか}・{ルビ錆=さび}ふりはらい
いつものバス停に向かう
歩道の
前を歩く女子高生
突然ふりむき
( すかーと ふわ ....
昨日 美術館で買った
イタリア製のボールペン
褐色の木に刻まれた
( The Paper Pen )
なめらかな筆記体の文字
金色に光る ペン先 と 頭
「 さぁ、これ ....
今日は休みだったので、十日位前から駅のポスターで見て行きた
いと思っていた「オルセー美術館」が催されている上野の東京都美
術館に行った。展示されていた詩情ある名画の数々は、やはり味わ
い深いも ....
夕暮れ
いつもの通学路で少年は
独り咲いている
紅い花をみつけた
家に帰り
父と別れた母に話すと
「 毎日水をおやりなさい 」
と言うので、次の日から
少年はいつも ....
日中の忙しさからすっかり静まり返った
午後九時過ぎの特養老人ホーム
入院先で亡くなった
Y爺さんの{ルビ亡骸=なきがら}が入った棺桶は
施設内の小聖堂に運ばれた
いつもはほと ....
「Le Poete」(詩人)
という名の店が姿を消した後
新装開店して「Dio」(神)
という名のピザ屋になった。
消えた、前の店と同じく
ピザ屋は毎日空席だらけ
カウ ....
昨夜の大雨で
水{ルビ溜=たま}りに{ルビ浸=つ}かった靴に
古新聞を丸めて入れる
翌朝
すべての水をすいこんだ
古新聞を取り出し
しめった重みを
ごみ箱に捨てる ....
嵐のあと
歩道に{ルビ棄=す}てられた
ぼろぼろなビニール傘
雲間から射す日射しに
一本だけ折れなかった
細い背骨が光る
あのような
ひとすじの {ルビ芯=しん} ....
夕陽をあびる
丹沢の山々に囲まれた
静かな街の坂道を
バスは上る
時々友の家で
深夜まで語らう
( 詩ノ心 )
午前三時
友の部屋を出て
秒針の音が聞こえる部屋 ....
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