流れてゆく
流れてゆく
二度と無い今日が
流れてゆく
僕は今夜ここで
(小さな舞台で朗読する
新宿ゴールデン街の老舗「ひしょう」で)
何を待とうか
星の無い夜空を仰ぎ
あて ....
アスファルトの下に張り巡らされた
地下鉄を降り、改札を抜けて
無表情な仮面の人々とすれ違う逆流は
生ぬるい風になり
この頬をなぶる
だが、視える
人波の間を分かれゆく
目の前の道 ....
一枚の額縁に収まる
植木鉢の紅い花
蕾だった奥に
花を咲かせるものがある
私の奥にも
私を咲かせるものがある
長い間 探した虹は見つからず
今日の行方を、風に問う
僕の内面にある
方位磁針は
今も揺れ動いている
風よ、教えておくれ
ほんものの人の歩みを
日々が旅路になる術を
群衆の ....
無人島の浜辺に
置き去りの切り株を運び
堤防に置く椅子にして
腰を下ろす
竿を手に
糸をしゅるる――と無心で放ち
午後の凪いだ海の水平線に
目を細める
阿呆らしい日々は
遥か ....
ドアを開くと
幾十年も変わらぬ空気の
Piano Bar Lyon
カウンターに腰を下ろした僕は
ピンク色のグラスを傾ける
ピアノの周囲には
いくつかのアコーディオン達が
寂れた ....
植木鉢の
{ルビ萎=しお}れたシクラメンに
水をそそぐ
日中は出かけ、帰宅すると
幾本もの首すじはすっと伸びて
赤紫の蕾がひとつ 顔をあげていた
先週、親しい伯父が病に倒れ
ふい ....
小袋を開けて
柿の種を食べる
{ルビ掌=てのひら}にのせ
柿の種に混ざるピーナツを、数える
――この組み合わせは二度と無いだろう
夕刻 ダウン症児の息子の
小さな手をとり
川沿いを歩 ....
風の招きに集められ
ひとつの夜に出逢う僕等は
互いの盃を交わす
この胸から
静かに踊り出す…心音の行方に
物語の幕はゆっくり上がる
誰にも知られぬ遠い夜よ
{ルビ蹲=う ....
私の中に
永い間眠っている
マグマ
涼しい顔してほんとうは
体内を巡る真紅の血が
いつも渦巻いている
そろそろ目を開く季節だ
あの空、葉脈、
一本の水平線を
( ....
まぼろしの人は戸口を開けて、歩いていった
後ろ姿が遠のいてゆく
夕映えへ連なる… 小さな足跡
――それを誰かは数珠と云い
――それを誰かはロザリオと云い
*
木漏れ ....
年老いた男は独り、犬をつれて
遠くから
石畳の道をこちらに歩いてくる
犬は、主人を引っ張り
主人も負けじと、犬を引っ張り
ぎくしゃくとした歩調は 近づいて
石畳の道を歩く
ふたり ....
世を去って久しい、彼女は
開いた財布の中にいた
先日ふらりと寄った
懐かしい店の
薄桃色のレシート
ちょこんと、折り畳まれ
あまりにも無垢な姿で
誰かが蹴とばした丸石が
転がって
僕の爪先にぴたり、とまる
――丸石は、{ルビ囁=ささや}いた
空っ風が吹いてきて
一枚の枯葉は{ルビ喋=しゃべ}りながら
アスファルトを、撫でてい ....
吉祥寺の老舗いせやで
鳥の小さな心臓を食べた
今日でトーキョー都民になって、一週間
せっせと外へ運んだ
古い家具たちに手をふり
四十三年培ってきた
自分をりにゅーあるすべく
串に刺さ ....
我よ、時を忘れて真空管の中を往け。
僕の部屋に友を招いて
ゆげのぼるお茶を飲みつつ
「マイナスをプラスに変える術」を
語らっていた
どすん どすん
窓の外に、切り株の落ちるような
物音に耐え切れず
腰を上げて、外 ....
今日はわたしが生まれた日
まだ{ルビ仄暗=ほのぐら}い玄関の
ドアの隙間から
朝のひかりは射している
幸いを一つ、二つ・・・数えて
手帳の{ルビ暦=こよみ}を
ひと日ずつ埋めながら
....
久々の実家に泊まり
ふと手をみれば
爪はのび
父と母はよたよた、歩く
ゴールデン街の飲み屋には
色褪せた「全員野球」のお守りが
ぶら下がり
小窓のぬるい風に、揺れていた
妻が財布を買ってきた
古い財布と、中身を入れ変える
小銭と幾枚かのお札を、入れて
レシートの束を、捨て
ポケットの空洞に
旅先のお寺で買った
お守りをそっと入れる
その日から
....
三日前、一度だけ会った新聞記者が
病で世を去った
一年前、後輩の記者も
突然倒れて世を去っていた
彼の妻とは友達で
今朝、上野の珈琲店にいた僕は
スマートフォンでメッセージを、送信した
....
なぜ人は歩くのか
なぜ人は長い石段を登りゆくのか
息をぜいぜい、切らせ
鳥居の向こうの呼び声に
引かれながら
黒い食卓に、置かれた
お猪口に
一つの宇宙は宿る
時には、夜のドアを開けて
静かな世界を照らす
月を眺める
秋の宵
――あなたのココロの目に視える
月の満ち欠けは?
日々追い立てられる秒針の{ルビ音=ね}から逃れて
やってき ....
船は往く
昨日の港を
遠い背後に置いて
船は往く
未開の日々を
目指して
揺れ動く海の{ルビ面=おもて}を
魚のリズムで、跳ねながら
甲板に立つ旅人よ
潮風に
頬を{ル ....
このがらーんとした
人っこ一人ない
田畑の
さびしさは何だろう
家の無い人のように
風呂敷包みを手に、ぶら下げ
虚ろな目は
まっさらな青空を視る
遥か遠い黒点の
翼を広げ、浮 ....
――誰もが探しているものは何?
ふり返ればずいぶん
{ルビ流離=さすら}ってきたけれど
――わたしが探しているものは何?
青い光
ヨコハマの
青い光
それは観 ....
鎌倉の山の間を
歩む叢の隙き間の遠方に
横浜のランドマークタワーが
くっきりと立ち
あんなにも遠いようで
ほんとうは
距離など無いと
汗の伝う頬を過ぎる、風は
僕に云う
....
人と人の間の
カキネのカベを、壊す時
遠い空で
合図の笛は鳴るだろう
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