悠々と 悠々と
川面に浮かぶ
ひとつのボールが流れてくる
何も惑わず {ルビ煩=わずら}わず
橋を潜り
今日から明日の方角へ流れゆく
あのように
川の流れのなかを
ゆきたいな ....
バックドロップや
ドロップキックや
ウェスタンラリアットを
次々と繰り出し
舞台という名のリングを
縦横無尽に駆けめぐる
詩人のあなた
その心根は繊細で
どこまでも熱い導火線で ....
目の前の
馬鈴薯と玉葱の炒めものは
たった一枚の皿であれ
時と所により
どれほどの幸いを、もたらすだろう
僕は今夜
晩年に娼婦の肖像を描く
マネの孤独の深さを知った
今宵 彼のアトリエを訪れる
ボードレールとマラルメの
美を語らう声が聴こえる
――汝のいる風景の〝今〟を視よ
....
ジャズを聞きながら
君に手紙を綴っていたら
知らぬ間にアルファ波が
出ていたらしい
気がつくと
時計の針の30分が
あっという間に過ぎていた
願わくば
退屈で長い1日よりも
....
渋谷・RUBYROOMのカウンターで
白ワインを飲む
今夜は嬉しいことがあったから
先月はここで
赤ワインを飲んだ
この店では月に一度
「SPIRIT」という朗読会が行われ
今夜 ....
僕の話の途中に
妻がスマホを手に取り
友達にメールを打ち始めたので
エラそうに腕を組み言ってみる
「人の話を聞くときはだな…」
すると
倍々返しの風圧で
怪獣と化した妻の口から
炎 ....
年に一度の聖なる夜
壁に掛けられた靴下には
目に見えない歌が
そそがれます
十二月二十四日の聖なる夜
無数の子供等は
あどけない寝顔で
それぞれの夢を見るでしょう
僕は神さま ....
特別支援学校に通う
息子が二年生の
ある夜
初めて妻に打ち明けた
ダウン症告知のあの日以来
息子について後ろ向きなことは
もう決して言うまいと
心に決めていたことを
語らう夫婦 ....
旅先で地元の友と会い
焼き鳥屋にて
杯を交わす夜
こうしてサシで話さないと
知らなかったこともある
僕の知らないところで
辛かったね
痛んでいたね
友達なのに気づくの遅くて ....
ある男は
大きな島の森の中で
明日を見据える
アマガエルを見つけた
ある男は
夜の無人のバッティングセンターで
白球を捉える
金属バットの音を響かせた
ある男は
絶望的な雨ふ ....
誰の手が自分を温める?
日本の何処かに
そんなお方はいるやも知れぬが
ああせめてその日まで
俺は俺の情けない手で
俺自身を温める
俺は俺の最上の友達
人知れぬ
酸 ....
優しい声が届かない夜は
深層意識の土に立つ
一人の木をみつめます
夕陽をそそがれながら
ひとつずつ実りゆく言葉の果実は
あなたの部屋に届くでしょうか
この道は哀しみだけで終わらず
....
9さいの無垢な涙の一滴は
遠い空から
地上の友の頬に、おちる
9さいの君を想う友の涙の一滴は
遠い空へ
やがて 吸いこまれてゆく
* 今夜行われた
詩人のともちゃ ....
こっけいな歩みも、また良し。
元々僕は何処か
やっかいなものだから。
けったいな足音をひびかせるうちに
けっこうな足音の瞬間が
この頼りない細足でも
あるやもしれぬ
から
こけこっこ ....
月曜の夜
オープンマイク「SPIRIT」に行った
若い詩人達が輝いていた
かれらをリードする主宰の詩人二人は
言葉の夜の
オープニングとエンディングで
世を去った同世代の詩 ....
あの日のあなたが立っていた
この舞台に僕は今、立っている
あなたの闇に
何もできなかった僕が
今宵、一つの約束をするために
もうこれっきりだと僕は言わない
体を脱いで空に溶けたあなた ....
背後にひとり立つ木の葉群から
夏の終わりの蝉の鳴き声…ふりしきる
路面を歩いていると
ふいに 涼しくなった
見知らぬ誰かが
水をまいた道だった
私は、気づいていたろうか
いつの ....
や~とな~それよいよいよい
や~とな~それよいよいよい
や~とな~それよいよいよい
ヤクルトが得点するたび神宮
球場に、東京音頭は鳴り響く
観客席に波を打つ無数のビニ
ール傘は、きらき ....
時は令和元年9月23日月曜日
神宮球場ナイトゲーム
8回の表
試合は佳境にさしかかり
引退を心に決めた阿部選手の同点ホームランで
(球場内はどっ、と湧き)
続く若手・大城選手の勝 ....
うええーん、えん、えん、えん
男の子が一生懸命に、泣く
ぜんしんぜんれいで、泣く
いつのまにかおじさんになった僕が
ぜんしんで泣いたのは
もう何十年前のことだろう
うええーん、 ....
旅先で飲み過ぎて
あぶないので三十分以上
間を
空けて、酔い覚めのからだで
いそいそと…露天風呂へ
(水を飲んだり、最善を尽くしたのだ)
閉館近い露天風呂は
すっかり掃けて
人 ....
みなとみらいを見渡す
横浜のビルのカフェで
ひとり珈琲を飲み
命日の近い詩人の生涯を偲ぶ
若き日に戦地で被弾し
負傷兵として帰国してから
九十三年の人生を終えるまで
か ....
スマートフォンの天気予報図を見た
「台風は非常に強い勢力を保ちながら
本州に向かっています」
空の御機嫌は知らないが
いずれにせよ
明日は来る
日々の些細な出来事に
ぐにゃ ....
一心不乱に庭の草をむしる中
訪れたアシナガバチが 数秒間
目線の先を漂い
静かに通りすぎていった
おととい
{ルビ合羽=かっぱ}で全身をまとい
屋根の下にぶら下がる、ハチの巣へ
殺虫 ....
時は昭和三十三年のプロ野球
日本シリーズ
巨人に三連敗で
絶体絶命の西鉄ライオンズ
エース稲尾和久は残りの四試合全てに登板
チームを逆転優勝に導き
翌日の新聞には
「神様・仏様・稲尾様」 ....
生きてるとどうしても
日々の狭い箱の中で
図太いおばちゃんに出くわして
むかかっ ときちゃう
僕の狭い心
そんなおばちゃんの
密かなチャーミングさや
ひたむきさや
ひたぶるさや
....
旅に予想外はつきもので
おどろかないってのは無理な話でも
おどろかないフリを
演じる役者でいたい
遠い旅先の雲の中を
突き進む
空の機内で思う
――友よ、願わくば
日々の旅 ....
ロックンロールを聞くために
玄関先の石段に腰を下ろして
鞄から引き出した
ディスクマンのイヤホンを、耳に入れる
{ルビ陽炎=かげろう}ゆれる向こうから
小柄な婆ちゃんが
歩行器に寄りか ....
愛読書を手に
寝床で頁を開く 休日の午後
ゆるゆると…睡魔に襲われ
眠りに落ちる、寸前
――ガンバッテ
の囁きに
はっ と目が覚める
隣室の机上の
日だまりに
昨日、水を ....
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