木々の間にかがやく青が
海だと気付くまで五年が過ぎた
ひとつの美しさに気付いたとき
ひとつの美しさを失った
太陽 ....
青空にゆるりと重なりひらく
細く淡い爪がある
遠く静かに狭まる道が
枯木に白く持ち去られてゆく
雲の速さに持ち去られてゆく
朝に散る虹
ふちどる碧
瀬に映る音
鐘 ....
言葉の木を枯らしたのは私です
寄生木を植えたのは私です
萎れてゆく花に拍手したのも
枝を鳥の死骸で飾りたてたのも私です
言葉の木は何も言いま ....
道端で
ガードレールを呑み込んで
冬の蛇が死んでいた
白く 汚く
冷たく 硬く
すべてに背中を向けていた
ひとりの少女が泣きながら
蛇の頭を撫でていた
私は言っ ....
荒地に倒れた鉄塔に
花と葉と鱗に覆われた子が棲んでいた
やまない雨のなか
たったひとりで
ひとりの赤子を生んだあと
風の向こうへと去っていった
雨が近い午後の下
....
暗がりのなか
細い光に照らされて
一匹の蛇が泣いていた
目を閉じたまま
わずかに汚れた白色に
かがやきながら泣いていた
蛇から少し離れた場所に
ひとりの少女 ....
影だけが落ちていて 拾い
においだけが落ちていて 拾い
ねむりだけが落ちていて 拾い
線路の上をゆく雲と月に
拾いものでいっぱいの両腕を照らされ
歩 ....
狼なのか羊なのかわからない
未分化のけだものの死体から
焦げた巨大な羽が伸び
夜の風にたなびいている
夜より暗くたなびいている
道端で死んでいた男の手から
俺は世界を得 ....
私が「知っている」と言うとき
知らない何かがひとつ生まれる
その終わり無き巡りのひとつひとつを
深く 浅く
許してやりたい
雲の日
風が強い日
ひろく浅い水たまりに
壊れた傘が幾つも沈み
鳥の化石のようにはばたく
こころもち静かに
午後をあおいで
ざわめく胸をひらく
遠い雲の ....
海へつづく水と葉の道
混じりものの多い風が吹いている
同じ速さで歩む人々
木々に隠れては現れる
曇と海の間に震える
雨の光が作る階段
朽ちた窓から見える原
住 ....
いくつもの傷
いくつもの雲
風をのぼり
空の終わりで出会い
いくつもの海を越えてゆく
光は雨に溶けてゆく
過ぎた日の光も
明くる日の光も
溶けあいながら分かれはば ....
小石の影が長くのびて
夕陽の家系図を道に描いた
たくさんの冷たい子供のなかに
ただひとり暖かい曾孫がいて
近づく夜にまたたいていた
林のなかのどこからか降る
ぼやけた影の重なりが
手首にふたつ震えている
青と緑の輪はまわる
音は少女の手にむずがゆく
降りつづける影をゆらす
鱗の血が
花の血が
笑 ....
降りてくる空
降りてくる影
枝に重なる
灰色の横顔
すぎる鳥が
すぎる冬が
小さな建物を見つめている
家と家の間の景色が
まるくふくらみ はみ出している
赤 ....
鳥は去り
木が生まれる
切られては元にもどる雲
光の枝
朝の頬
つつむ手のひら
空は青い傷のもの
雨の暗号の向こうへと
ひとつのかたちが飛び去ってゆく
....
船の重さに泣く海から
浪のかたちの水柱
けもののように吠えのぼる
冷えては骨に染まる鳥
心なき王国をかいま見る
低い月の光にまみれて
甘いにおいを
鏡の道 ....
空の塊からかけらが降り
たぐり寄せる手管の風も降る
目に痛い青
耳に痛い青
一瞬の
張りつめた声
塊の背に立つ
塊の青
幕間を告げる声は降り
凍った公園に撥ねかえる ....
目に見えない蜘蛛の巣が
頭の上に降り積もる
あたたかい
振りはらっても
振りはらっても
あたたかい
降り積もる
降り積もる
あたたかい
降り止ま ....
一羽のカラスに
二羽のカラスが入り込んで
たくさんの声で呼んだのに
誰も来てはくれなかった
雪の山を登っては降り
登っては降り
誰も外に出ていかぬまま
冬 ....
ひとり ひらく 夕暮れの手のひら
灰色の高みの
氷のような雲から
午後を
午後を と
つぶやくもの
ゆくえ知れぬその手に
裂けた花をのせれば
はじまりはよみが ....
まなじりにひらく羽
空の水をとおる
半透明の光を見つめる
はばたきのなか まばたきのなか
ひとえ ふたえ
瞳は空と話しはじめる
白い終わりの木々に囲まれ
道の無い ....
天気雨が終わり
朝が降る
花の頭の魚が
光の首の鳥が
幾つもの頭の獣が
何匹も空へ昇ってゆく
海のなかのふたつの木
冬の終わりとはじまりのように
降りそそぐ朝のなか ....
水たまりの底には
うすく泥を着た羽とガラスが
凍った影のように並んでいた
鴉と鴎の鍵盤が
雀と鳩の木琴に
雨の降るなか
嫉妬していた
たくさんの
言葉のサ ....
土と風の間を
蝋燭の火が流れてゆく
緑の夕方を
横たわるひとりの子の上を
枝の影は伸び
透きとおり 重なり
森のなかの道を指さす
雲が雲を吸い
空を明るくに ....
悲しい歌がひとつ終わり
静けさが喜びのようにやってきて
ふたたびはじまる悲しさに微笑む
雨の花に空は映り
空には雨の地が泳ぐ
水の歌が降り
歌の水が降り
鳥 ....
散る空があり 重なって
地にひとつの花を描いた
子供がたくさんの光を飛び越えていった
声の飛沫はらせんに昇り
かがやきとかがやきとかがやきの差異が
手をつなぎ かすかな羽 ....
拡声器の夢が
拡声器の子守歌に背負われ
揺れている
道から道へ
原から原へ
静かに理想は移動してゆく
堂々巡りの内の人よ
たどりつかないは
たどりつき ....
花を負う花が雀になり
鴉にやさしくついばまれている
音は聞かれる間もなく火となって
水だけを求めて落ちてゆく
別の音が別の音を得て空に生まれ
二羽の鳥の背の上から
川に沈 ....
風があり 葉があり
木々はゆっくりと点滅する
空にとどまるもうひとつの空
もうひとつの深緑
風になれないふたつの風
一本の木が
朝をさえぎり
音をさえぎり
....
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