ニジのこと
はるな


あんまり赤い傷あとと、白いような傷あとがだらだら残る、道はいやな雨のあとみたいに湿ってて嫌い。って少し思ってた。少し好きで、あとの多くはよくわからなかった。
何度か裏返った世界と流れの変わる川、気を抜くと転がり落ちる月、そのくせ何度も登る。ハロウィン、13年、わたしは昔、やっぱりわたしだった。ニジのあとみたいだねーって言うむすめ、ピンクの長ぐつ、むすめのかたちに反射する光、鍵。なんかつねに奇跡みたいなこの人、ずいぶん人間らしく怒ったり悩んだり焦れたりしてはかれない。じっさいまぶしくて、でも目を閉じたらあぶないからみてる。

みてた、世界のすみずみが、大きな手ではじかれるようにきらきらひかるのを。ひかって、それが終わるのを。かなしくてこわくて、逃げたかった。ひかりおわって、だってそれからは?と思うとかなしくて、その大きな手がここにもこないかと待つのもこわくて、来て欲しくて遠くてさびしかった。
きれいなはんかちみたいに広げられた世界は、いまは旗みたいにばたばた翻っていて、わたしは飛ばされながらみている。さびしさは折りたたまれて、いつかの箪笥にはいった。(引き手に模様の増えていく箪笥)
記憶は解体され、組み立てられる。漂白され色付けされる。音が奪われたのちに与えられる。そして箱詰めされ忘れられる。忘れられてはじめて時間は完全に所有される。
だからこの虹はまだわたしを拒んでいる。
わたしがかつてみた夜を所有してしまわないよう赤白くのこって、ばたばた翻っている。



散文(批評随筆小説等) ニジのこと Copyright はるな 2017-11-01 02:47:03
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