上京乗り鉄記
日雇いくん◆hiyatQ6h0c


 嫁がデトロイト・メタル・シティをまた見返している。相当気に入っているようで、暇があれば見ている。
「貴様の罪はー、俺が罰するー」
 嫁が主人公のデスボイスを真似て口ずさみながら見ている。すっかりあきれて、ひたすらネットに没頭することにした。
 こないだ5ちゃんという名前に変わった2ちゃんを見ていると、一部の撮り鉄の、非常識な行為を取り上げているスレッドがあった。
 見ているうち、上京した時のことを思い出す。

 札幌から3度目の上京を果たしたバブル期、ちょっとした乗り鉄になっていた時期があった。
 札幌には私鉄がない。あるのはJRと市営交通だけだ。物珍しさにつられ、ほいほいといろんな路線に乗った。1,2度目は仕事の事情でそんな暇はなかったので、今度の上京では東京を楽しもうという気分にもなっていた。
 上京して住まいのない身には土方の仕事で寮に入り10日間の労働契約で金を稼ぐのがありがたかった。そうした事情もあって、ちょっとした旅のつもりで、気に入らなくなれば出ていき、いろんなところに行った。バブルの恩恵を比較的受けなかった方だが、次々と働く場所を簡単に変えられたことには感謝している。
 しばらくそんなことをしていると、路線ごとに風景の色が違っているのが見えた。
 言葉にしにくいが、京王線と小田急線は同系統、東急は少し落ち着いた感じ、西武線は活気があり、一番なぜか落ち着く色あいだったのが東武、それも東上線だった。
 そのせいかわからないが、何度目かわからない転職を繰り返すと、落ち着いた先は東上線だった。自衛隊時代に知り合った知人に沿線住人がいて、そいつと仲良くなってタイミングよく一緒に住むことになったからだ。
 いろいろあって時期は短かったが、そのまま地域に腰をおちつけることになった。
 それから長い間、東京から埼玉に引っ越しもしたが、仕事もしやすかったので、東上線には数年前までお世話になることになった。
 東上線のあの色が呼んでいたのか。
 いまとなっては不思議だ。
 
「ねえ、ごはん食べよー」
 妻に言われ、回想から引き戻された。わかったと言い食事の用意をする。

 それから年を取って東上線から離れる身になったが、たまには行くこともある。



散文(批評随筆小説等) 上京乗り鉄記 Copyright 日雇いくん◆hiyatQ6h0c 2017-11-02 18:35:39縦
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