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部屋の電気は消してしまって
まっくらで物静かな夜
十一月はひたひたと
毛布の重みと共にやってきた
手は繋いだままで
寝息の輪唱を続けた
手のひらの温かさだけ
....
鰹と昆布出汁のお味噌汁には
豆腐とあさつきを浮かべただけ
甘めの卵焼きをクルクルと
上手に巻いている菜箸兄弟
グリルの中では塩鮭の皮が
薄く煙と音を立てている
起こしにやってく ....
うどんの出汁をとった
ご飯の炊ける匂いが嫌になったから
ツルツルと食べられるものが良かった
掛け布団を洗った
柔軟剤の匂いが嫌になったから
今夜は少し寝苦しい夜だな
....
私が立っているビル群の下
そこには昔深い海があった
不燃の塊に埋め立てられ
魚は住処を失って
そうして海は死んでいった
濁った灰色の海を眺めても
波音は聞こえては来ない
私が ....
蛇口をひねると水が出た
コップから溢れても水は出続けた
いつからかそれが当たり前になり
有り難みも薄まってしまった
母を頼ると愛をくれた
母は無償の愛を与え続けてくれ ....
毎朝の「いってらっしゃい」も最後の日
ひと休み 蜜柑畑にお茶の声
皺も増え顔も似てくる五十年
三回忌 手酌で交わす水の月
寝苦しい夜に絡まる指の紐
冷や麦茶 汗も滴るいい温度
輪唱で徐々に深まる両寝息
網戸風が鳴らすカーテンの風鈴
身軽に空を飛び回って
ふわりふわりと暮らすこと
ずっと夢見ていたけれど
あんまり気持ちいいものじゃないな
南の島や海の底
東京タワーのツノの上
ずっと行きたかったけれど
あんまり美し ....