きみ、
蜜柑、
しろいほっぺたに、
ふたつの蜜柑、
調律をしをえたばかりの
おとぎばなしは
こぢんまりとした
こどもの耳の中で
ふたたび輝く
なまえのない宝石を
空にかざす
君がなまえをつけてくれ
ささくれたブランコに留まる
....
二両電車のシートから
真向かう窓 で
連なる民家の軒と緑の蔭
物皆の息吹き
重々しくもあり
閑かなる虚しさに堕ち行く
薄暮のとき
欠伸を殺し盗み見る
斜め向か ....
まあるい命たちが
ぽんぽんぽんと
軽やかに跳ねるように駆ける
陽だまりのなかで
艶々とした瞳
揉み合って取っ組み合って
じたばたとひっくり返る
小さな手足を伸ばして
ころんと横 ....
居酒屋で隣り合ったおじさんは
おらぁ故郷を捨ててここまできたんや
なんて自慢気に言う
よっぽど話しかけやすい感じなんかな
どうでもいいけど
捨てたんじゃなくて
捨てざるを得なかったとい ....
{引用=
打ちあげられたように、青白いシーツの砂浜の上で晒されている。まどろみ。おだやかな白い波に晒されながら、そよと吹く風に晒されながら、あるいは無数にきらめく石英質の砂塵に晒されながら。そして、 ....
漂流記も六十八年に及ぶと疲れてくるが
ときたまの発信が僕の生きている証ならば
更に時を重ねて漂流するばかりなのですが
方丈記にある泡沫は淀みにあって
もう暫くは世の中を眺めているのでし ....
ぼくはちっちゃくて
やせっぽちで
ひとりふるえているよ
それは
青白い蝋燭の炎
風に吹かれ
常に揺らいでいる
その様を晒し
澄んだ歌声を響かせる
荒野に、この荒野に
ぼ ....
きみはぼくのブルース
部屋にころがってるもんでできた
さびた機械
コップのなかにたばこの灰を落として
きれいに笑いころげる
きみはきれいだ
きみはきれいだ
きみはきれいだ
ぼく ....
分厚い雨雲の真ん中が綻び
底なしの穴の遥か遠く
水色の空が薄氷越しに透かし見えると
遠い夕焼けが破れ目の縁を
なぞるように湿らせる
逝く人の
輪郭を切り取るだけの硝子窓
....
{引用=二人の旅行}
迷い込んだ蝶が鍵盤にとまった
ゆっくり開いて
ゆっくり閉じて
あなたは水へと変わり
音楽は彫像となって影を落とす
わたしは感覚と記憶
去るものと共に流れていった
....
14歳の頃 心から信じていた先生が言った
「今の君には無限の可能性がある」
「でも君がそのうちの1パーセントの可能性を選択した瞬間に、残りの99パーセントを失うことになるのだ」と
それは冷酷な ....
ある朝わたしは鴎になり
中央区永代橋の橋桁から白い小さな翼をひろげとびたつ
(そのときわたしははじめて空の名前を知ることになる)
江東区東陽町一丁目三番地
古めかしいビルの窓から
....
おだやかな
初夏の朝
気持ちのイイ空気を吸って
ぢめんにコインを並べる人たちが話し合っている
地球のほうはどうですか?
ところで、さざなみ、という言葉はいいですな
もしもし
あ。 ....
彼にとってどうでもいいことが、
彼女にとっての切実。
彼女にとって取るに足らないことが、
彼にとっての切実。
ため息と共に空に消えた君の透明な青春は、
今夜誰かの青い夢になる。
....
何もかも全然なっていないなと思う
みんな自分よりずっと立派にやっているよ
ぼくが彼らの何を知っているというのか
彼らの生活と考えと家庭事情の何を知っているというのか
ぼくは本当にこのま ....
たよりは
いちまいの
いかだ
もじがながれていく
いちまいの
はがながれて
いく
ことばのかわ
りはなく
ながされて
よりそうは
かのように
いかだのうえ
....
病床の旧友よ、それでもなお、夏への憧れを失わずにいておくれ。
学び舎は今でも坂の上に、サイダーは学食の自販機で冷えているよ。
先生、あのね
わたしは不幸な花なの
蜜を吸いに、不幸な蜂たちが集まってくるの
わたしはそれを友達と呼ぶし
向こうもわたしをそう呼ぶけど
蜂たちが幸せになったら
わたしの蜜なんて不味くて飲め ....
天を貫く古山の欲深き、
肢の尽いた朧げな光の燻ること、そぞろ
御堂の段を少しずつ崩す道程は、
陰が拒んでは床が亡く、黒煙
これが鬼であるなら、
救いを求めて喰らうであろうが、
無念にも ....
ぼくは頭がわるい
悪いなりきにむかし本を少し読んだ
宮沢賢治の永訣の朝という詩が
好きで何度も読んだ
それから
長い小説を読む根気がないから
短編をいくつか読んだ
....
細かな砂利と一緒に寄せ
滑り落ちてゆく
向こう側へ
くるぶしまで濡らしては
かえすゆらぎ
見上げれば
三角形の
それぞれの頂点が
数万年の誤差で
瞬いている
星屑のそれこそ屑だらけの海を泳いで
ようやく海から這い出たような
じんわり、と、重い。
私を裏返してでてきたものを
両手でかき集めて
ひとつひとつ灯の光に透かして見てみると
とてもきれいで ....
『これはそんじょそこらの百貨店には売ってない。』と、
いかにも百円な感じのスコップを持って断言する
大きなサングラスをかけた男の人が立っていて、
変わった人だなあと感想を抱いた。
この人ど ....
この宇宙に
何かが流れ出て
わたしが生まれ
太古のヒカリ
夜の底から
力を貰い
未来のヒカリ
わたしから流れ出る
捧げられ 捧げる 全ては一途な捧げもの
....
世の中には色々な見識があり、立場の違いによっても見えてくる現実は違ってくるものだ。Kちゃんのことについても、かなりきつくこき下ろしはしたので、彼女に対して同情的な見かたをする人も、中にはいる ....
学校帰りのアルバイト
コンビニエンスストアで
最近話題のいい男
噂のビニ弁レガシィ君
いつもあたしが暖める
彼の夕食五百円
コンビニ弁当ぶら下げて
乗り込むクルマは
ニューレガシィ ....
足踏みミシンと云うものは、老齢になれば大概、希む夢を視る術を体得しているので、壮年の頃の華やかな布たちとの遍歴を写真帖の頁をめくるように幾度も夢の劇場で反芻しながら陽の差し込む納戸の奥でうつら ....
このベランダにはほとんど雨が吹き込んでこない。建物が林立しているために風が入り込んでこないのだ。降っていても裸足で出る、湿ったタイルの心地、むすめが背中にぴたりと張り付いてくる。
咲いた蘭、いく ....
図書館で君は少し死んでいる
少し死んだ体で雑誌を読み本を選ぶ
本は死んでいるから
本を欲する君も少しだけ死ぬ
僕も図書館では少し死ぬ
少し死んだ体で本を借りるとき
僕たちこんな死んだ部分で ....
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