少年時代 何にも無い野原を駆けていた僕は いつの間にかレールの上
行方も知れない列車に座り込んで 外を眺めていた
目の前に広がる世界は昔のまま 緑の季節を湛えている
まるで僕だけが時に乗って 老 ....
なたね梅雨、濡れ葉に皐月近づけり
緑に薄青き色を添えし衣着る娘立ちおれり
わずかに微笑みておれり
路に水流れ、曇り空、
夕餉の魚持ちてゆっくり歩む帰り道
....
はるのおなかが
ぷっくりふくらんでいるのは
ぼくがそのなかで
ぐうぐうねむっているから
だけど
はるのおなかは
とってもひろい
だからみんなで
ねむりにくる
たくさん ....
「楽しいイベントの中にも
悲しい出来事が含まれている
順調に進んでいるように思えても
簡単に振り出しに戻ってしまう
悲しいイベントの中にも
楽しい出来事が含まれている
一回 ....
とおくみつめる
あの秒針の刻む音が
きこえるほどの しずけさで
あやしくぼんやりとした曇天に
にじむ光の粒子を
私も刻む
時のまなざしは熱かった
始まりは、秋の縁側で
ぶらさがっ ....
春という季節は
いつでも液状にデフォルメされてゆく
匂い立つ色彩が
にじみ流れ溶けあい渦巻く
私の輪郭もそのただなかに
半ばは溶けかかりながら
けれど決して溶けきることはなく
冬をいとお ....
ある日
世界中で一斉に雨が降り始めた
それはずっと降り続き
海は荒れて
全てを押し流す勢いで
世界中の科学者や
偉い人たちが
毎日議論を交わしたけれど
それは一向に解消されなかった ....
まちがえることを
素直におそれた日々は
だれかのきれいな蝶々結びに
たやすく揺られる花だった
あの草原で
かぜを追いかけてゆくことに
不思議はどれほど
あっただろう
....
猫になりたい
と思った
近所の公園に行った
が、逃げられた
ので不採用
魚になりたい
と思った
海に潜った
が、溺れた
ので不採用
学歴はあった
求人雑誌ひろげれば
....
綻びをつくろうために
いつも
針と糸を持ち歩いている
『影縫い』
性分なのか
ほつれた影を見ると
どうにも放っておけない
影の形は
人によって様々だ
明るく快 ....
嫌になるときだってあるよ
そう言うと
友だちは笑顔でうなづく
さほど広く無い部屋に
ふたつ机を並べ
四十六時中
お互いの気配に触れ合って過ごす
それでも机と机を隔てる
背の低い ....
花かんむり
シロツメクサの匂い
透明色
ソーダ水の水面の波紋
むせ返る夏を
不器用に泳いで
よろめいた夕暮れ時に涙
びーだま、の
陽炎のアスファルトで
かなしい音を立 ....
微笑みや涙を分かちあった人も季節も
今は移ろいゆき 途方に暮れ一人佇む
そんなとき海馬を優しく揺り起こされ
私は 翼ある者に呼び醒まされるだろう
人生の黄昏を ごくゆっくりと咀嚼しながら
....
わたくしは、
そ知らぬ仕種で
かおる紅茶をなめる。
風に頁がめくれようとも
見果てぬ大空が翻ろうとも
わたくしは、
そ知らぬ
今日に
ほころび
いつかあえる
光子の微笑む
丘の上 ....
仮想現実
仮想家族
僕等まだ
おままごと状態
プラスチックの人参
食ってりゃいいの
すべり台の上で
君の帰り待ってるよ
偽装現実
偽装家族
雑草お味噌 ....
濁った沼のある寂れた町に
マリーという女が住んでいた
マリーの本名は誰も知らない
彼女は
夏の真夜中のような眼をした
中々の美人であったが
友達はいなかった
若者はみな都会 ....
煙る午後に
まどろむ陽光が
研磨された鋏刃の隙間
さわさわと開放し行儀良く
沈静し少し乱雑に
定着する
鼓膜を突き抜け
仄暗い床板の軋みに
胡坐を掻いて青い影を落す
女の ....
((時のしずくが したたるのです))
春のひかりが 虚ろな心に影を落とすので
ふたりは桜並木の まばゆい川べりを避け
淡く花びらをかさねた 甘い翳りをさまよう
寂びた石段で ひるがえるあな ....
画布一面に
描かれた椿の
色彩の深みは
凍えた空を思わせて
ひとすじの風にさえ
枝葉のさざめきが
聞こえてきそうであった
重なりあう緑葉の中に
たった一輪きりでも
咲き誇る花は
見 ....
夜、
左の肩甲骨に
小さな傷が生まれた
羽根でも生えてくるのなら
わたしはきっと毟り取ろう
朝、
柔らかい霧雨が降ってきて
わたしは傘を捨てた
強く責めるなら抵抗もしたけれど
....
誰かが結び目をほどくように
この世からすべての母はいなくなってしまった
それからというもの
わたしたちはわたしたちのてのひらに
なにかしら母と呼べる物を乗せ
黄昏の明かりにそれらをかざし ....
1
夥しいひかりを散りばめた空が、
みずみずしく、墜落する光景をなぞりながら、
わたしは、雛鳥のような足裏に刻まれた、
震える心臓の記憶を、柩のなかから眺めている。
(越 ....
雨の日のために誰かが涙を流さなければならないのだと、ある人は言った。
柔らかなラジオノイズのような雑音が脳内を満たしていく
薄い瞼ごしに 朝の微かに湿った空気が眼球をそっと刺した
....
『癌と云う/漢字が書けるようになりました』/外科医に向かいて父が笑う
『お父さんの/腎臓を見たよ』と呟いて/遠くを見つめる母の背中
『治るよね?』/テレビを見つめて兄が聞く/誰 ....
あなたの腹黒い証明を
鏡に映して見せてください
切り開かれた瞳孔は
直視するのを嫌うでしょう
冷たい夜の水底へ
....
押入に夕闇はつと隠れてる
「もういいかい」と「まあだだよ」とで
庭先にブランコだけがゆれていて
昼のサイレン明日はとおく
陽のひかり障子にさせば心痛み
....
{引用=*
ぼくの町ではさあ
エプロンについた醤油のしみまでが神々しく輝くんだ。
- 朝 -
そいつを封筒につめてだな
なんにも書いてない便箋一枚
一緒にいれて。
灰色した丘のうえのポ ....
品詞の群れが
淡青く固まって
規則正しく
埋まっている
あの砂浜の
崩れたお城のあたりに
それらは風化し
擦り切れて
最早
意味など成さないのに
皆が使いたがるのは
如何して ....
昨日は其処には無かった窓から
招待状を携えて
使者の使者があらわれた
見おろすと路上はすっかり{ルビ鈍色=にびいろ}の流動体と化していて
あちこちのビルの歪んだ非常階段に
コロスが点在してい ....
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